ホリショウのあれこれ文筆庫

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第21話 NHKドラマ「男たちの旅路」思考

序文・ドラマ「男たちの旅路」を初めて見たのは、中学生の時だった。未だに私を魅了して止まない。人生とは「生きる」とはどういうことか考えさせられます。

                               堀口尚次

 

 1976年の山田太一脚本のNHK土曜ドラマである。ガードマンという職業を舞台に、戦中派の世代と戦後世代の若者との心の葛藤が見事に描かれた傑作だ。

 主人公の警備会社・司令補役に鶴田浩二、警備会社・社長役に池部良、ガードマン役に水谷豊・森田健作桃井かおり柴俊夫清水健太郎・岸本加世子などの役者がそれ

ぞれいい味を出している。

 基本のコンセプトは戦中派の司令補が、あの過酷な戦争体験(特攻隊で戦友を亡くし、自分だけが生き残ってしまったという罪悪感)から抜け出せずにいる中、自由奔放に生きる若い世代の部下(ガードマン)達の立ち振る舞いに我慢が出来ずに衝突するという展開だが、反発しながらも次第に真摯で勇敢な司令補の姿に魅了されていく若い世代のそれぞれの葛藤を見事に描き切っている。

 絶えず物語の中流にあるものは、「正義」「勇気」であり、さまざまな社会問題をテーマにして展開し、司令補役を通して、脚本の山田太一が問題提起したかった事を、俳優達は圧巻の演技力で演じ切っている。

 ここで、ドラマの中で司令補役の鶴田浩二が発したセリフを採り上げてみる。

車椅子の障害者達とのふれあいを描いた話で、障害者達が仕事(就職)や住まい(アパート契約)の件で大変な苦労をしている事に対して若いガードマンが「あんな目にあってるのに、どうしてあの人達はグレないんだろう」と言うと司令補は「グレてる暇がないのさ、車椅子の人間がグレてて生きていけるか、そんな余裕がないんだ。」と。そして、車椅子の若い女性に「君はお母さんの言い成りになってる、言い成りになっていればいつかお母さんを恨むようになる、逆らえとは言わない、肝心なことは自分で決めなければいけないと言ってるんだ。」とも。また、会社(警備会社)の不正を知った部下が、不正行為の実情が人情的に許せると判断し、聞き取りにきた司令補に対し「やむおえない事情だってあるよね、社会には裏や闇はつきものだよ、世の中こんなものだよ。」と言うと「そんなことでどうする、お前が一生かかって暴いても裏はあるんだ。初めから世の中こんなものと決めてかかってどうする!」と諭した。こんなセリフもあった。「自分で悩んで条件を突き付けて来た人間と、人が成功したのを見て、尻馬にのって来た君達とは根本的に違うんだ!」

 鶴田浩二は本人の特攻隊・整備士としての経験からも、ドラマに共鳴する部分があったのだろう。元任侠映画のヤクザ役が、正義の味方ではないが寡黙で愚直な戦中派が戦後生まれの若い世代と対峙していく役にどっぶりはまっていた。「俺たちの世代は、『照れ』というものを知っている」のセリフが好きだ。f:id:hhrrggtt38518:20210902091205j:plain