ホリショウのあれこれ文筆庫

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第104話 妖怪と幽霊は似てる

序文・日本人は昔から妖怪や幽霊と付き合ってきた。

                               堀口尚次

 

 妖怪とは、日本で伝承される民間信仰において、人間の理解を超える奇怪で異常な現象や、あるいはそれらを起こす、不可思議な力を持つ非日常的・非科学的な存在のこと。妖(あやかし)または物の怪(もののけ)、魔物(まもの)とも呼ばれる。

 妖怪は日本古来のアニミズム生物無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、もしくはが宿っているという考え方〉や八百万(やおよろず)の神の思想と人間の日常生活や自然界の摂理にも深く根ざしており、その思想が森羅万象に神の存在を見出す一方で、否定的に把握された存在や現象は妖怪になりうるという表裏一体の関係がなされてきた。

 時代ごとに人間が超自然現象と感じる事象の範囲は異なるが、時代をさかのぼればさかのぼるほどその範囲は広かったと考えられる

 古来のアニミズム的な思想において、あらゆる事象に宿るとされていた霊的存在は「物の気」などとも表現されてきた。霊魂はそれぞれが感情を持つと信じられており、和(なご)んでいれば豊作のような吉事(きちじ)をもたらす「和魂(にきたま)であり、荒れていれば災害や疫病のような凶事をもたらす「荒(あら)魂(みたま)であるとし、荒魂を和魂に変える手段が「祭祀(さいし)」であり「鎮魂」であった。一般的に祖先や偉人、地域によって時には自然や動物も和魂として守り神となってもらえるように祀(まつ)り続ける一方で、その時代では解明できない凶事(きょうじ)と畏怖(いふ)をもたらす存在も、祀ることで凶事をもたらさなくなるよう鎮魂が試(こころ)みられてきた。つまり、元々は妖怪的存在とは荒魂のうち祀(まつ)られなかった、祀ることに失敗した、もしくは祀り捨てられた存在に求めることができるといえる。

 もっとも、時代の進行に伴い、超自然現象ではなく合理的に説明できる事象の範囲が著しく増加していく。同時に、妖怪を盛んに絵巻や絵として造形化することにより見た目の固定化、キャラクター化が進み、畏(おそ)れは和らぎ、時代の流れとともに妖怪は娯楽の対象へと移り変わっていく。娯楽化の傾向は中世から徐々に見られ始め、江戸時代以降に決定的なものとなる。

 ちなみに有名な妖怪は、河童・酒呑童子・天狗・ろくろ首・海坊主・一つ目小僧・雪女・からかさ小僧 などなど、お化けとごちゃまぜになっている。

 一方幽霊とは、死んだ者が成仏できず姿を現したもの、死者の霊が現れたものとされ、人間の肉体が死んでも魂が死なずに現世でうろついたり、家宝を守ったり、現世への未練から現世にとどまったりする話は多くあり、霊が他人や動物にのりうつることもあるといわれる。

 幽霊は何かを告知したり要求するために出現するとされていた。しかし、次第に怨恨(えんこん)にもとづく復習や執着のために出現していると考えられるようになり、「幽霊は凄惨(せいさん)なもの」という印象が強められていった。「いくさ死に=戦死 は化けて出ない」との言い伝えもあるが、凄惨な最期の姿を留めて出没する戦死者の亡霊の話は多く、平家武者の亡霊はその典型であろう。幽霊の多くは、非業の死を遂げたり、この世のことがらに思いを残したまま死んだ者の霊であるのだから、その望みや思いを真摯に聴いてやり、執着を解消して安心させてやれば、姿を消すという。なお、仏教的見地でこういった状態になった幽霊を「成仏(じょうぶつ)した」と称するが、日本の幽霊は仏教の伝来以前から“居た”のであり、そもそもは古神道ないし神道の影響下にあって、成仏ではなく鎮魂されていた。

 日本の仏式葬儀(仏教葬儀)で、願戻(がんもど)し〈死者が生前に、神仏に対して願掛(がんか)けをしていた場合、心残りがないようにと、残った人がその諸願を取り消してやろうとする呪法(じゅほう)〉、死後の口寄せ、施餓鬼(せがき)供養などを行うのは、ある意味で、死者が幽霊と化すのを防ぎつつ、成仏しやすいように促す儀式といえる。

 ようするに、妖怪幽霊の一種であり、この世に未練があったのであろう。『妖怪人間ベムベラベロ』も「早く人間になりたい」と望んでいた。『ゲゲゲの鬼太郎』は妖力(ようりょく)を持った人間だが、目玉おやじねずみ男・ねこ娘・砂かけババア・一反木綿・ぬり壁・こなきジジイなどまわりはみんな妖怪だ。これらの妖怪は、河童や天狗なんかもそうだが、怖くない。

 ところが、幽霊でも物語に出て来るような「お化け」となると怖いのだ。『番町皿屋敷のお岩さん』『四谷怪談』『牡丹燈籠』『小泉八雲の耳なし房一』など、いわゆる怪談である。

 私は、妖怪幽霊を正しく理解し、彼らと仲良く付き合って行ける様に努力するが、基本的に怖がりなので、なるべく関わりたくはないのである。

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