ホリショウのあれこれ文筆庫

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第241話 本当の強さとは

序文・優しさという強さ

                               堀口尚次

 

 冬季ながら連日の熱戦が繰り広げられている北京オリンピックだが、選手の活躍や、まわりの動静に、「本当の強さと何か」という事を考えさせられた。

 スキー・ジャンプ混合団体で、スーツの規定違反のため高梨沙羅が失格して泣き崩れた際に、近寄り声をかけたドイツの女性理学療法士がいた。強さを競うのがスポーツであり、当然その結果としての順位があり、選手たちは力の限りを尽くして戦った結果にすべてを懸けている。しかし「ルールや規定」もスポーツには付き物であり、厳正に運用されるべきである。故意でない規定違反判定を受けた高梨選手の心中は慮(おもんばか)らずにはおれない。その気持ちに寄り沿ったドイツの理学療法士の女性は本当に心優しい強い人間だと思う。

 スキーフリースタイル女子モーグルの決勝で、17歳の川村あんり選手は5位となり、メダル獲得はならなかった。試合後のインタビューでは涙があふれたが、最後は「ありがとうございました。寒い中ありがとうございました」と締め括った。弱冠17歳の一人の女性が、自分自身が打ち萎(しお)れているにも関わらず、他人〈インタビュアー〉を思いやるという心の優しい本当に強い人間だと思う。

 振り返れば平昌(ピョンチャン)オリンピックの時に、スピードスケート女子500mで金メダルに輝いた小平奈緒選手が、接戦を戦って小平に敗れた韓国の李相花(イサンファ)選手を気遣った行動が称賛を浴びたことも、記憶に残っている。

 スポーツマン・シップというい言葉があるように、スポーツには、勝敗だけではない、勝敗を通じて互いを称え合う美徳みたいな側面がある。それらは時には、見る者に爽やかな感動や、スポーツを通り越した人間愛みたいなものを感じさせてくれる。

 日本には、昔から「謙譲(けんじょう)の美徳」という言葉もあり、勝者は誇るばかりではなく、敗者に対しての気遣いが出来ることが、日本人にとって重要な道徳観念とされた。そもそもは、「万事にへりくだって相手を立てる姿勢」をさすが、本当に強い人間は、優しやを突き詰めた、弱者〈敗者〉の気持ちが分る人間だと思う。ラグビーの「ノーサイド」の思想もこれに通じるものを感じる。

 勿論「勝ってなんぼ」の勝負の世界では「きれいごと」など言ってられない場面があることも承知している。ただ、見ている者を感動させるのは「素晴らしい記録」だけではなく、「素晴らしい対応」であることも多々あるのだ。

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