ホリショウのあれこれ文筆庫

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第282話 救急救命士の処分について

序文・法が先か命が先か

                               堀口尚次

 

 3月27日の中日新聞に「救急救命士 居合わせた看護師に医療行為指示」の記事があった。記事のよると、【愛知県豊橋市が市消防本部の男性救急救命士(53)に科した懲罰処分が波紋を広げている。出動した交通事故の現場で「自分より技量が上」と見なした看護師に医療行為である救命処置を委ねたが、法律上は禁止行為だった。処理を受けた男性は一時、心肺停止だったが現在は回復。ネット上などでは男性救命士を擁護する声が目立ち、識者も「難しい問題」と話す。】とある。

 脳科学者の茂木健一郎さんは自身のツイッターで、懲戒処分に疑問を呈している。ツイッターの内容はこうだ。【何が「医療行為」であるかという人為的な線引きより、目の前の人を救うコモンセンス〈常識〉の判断の方が大切。消防職員さん、何も悪くない。空虚な形式主義が、日本を衰退させる。】

 法解釈では、救命士が現場で医師以外の人に処置を委ねるのは禁止されており、今回の行為は救急救命士法に抵触する恐れがある。総務省消防庁の担当者は「救急救命士法より上位に当たる医師法で、『医師でなければ医業をしてはならない』と書いてある以上、従うことは絶対」と話し、「規則を守らねば公務員としての業務が成り立たない」と説明を付け加えた。

 日本救急救命士協会の鈴木哲司会長は、「処分は仕方ないが、命が懸かった一刻を争う場面で、自分より技能のある人に任せる判断は間違っていない。法が先か命が先か難しい問題だ。現実に合わせ、現場で柔軟な対応ができるような法改正を考えてもいいのではないか。」と話す。

 私は、今回の事例で過去にあった大相撲で、挨拶中に倒れた首長を助けようと土俵に上がった女性に「土俵から下りる様に促した関係者の対応」を思い出した。この場合は法律でもないし、公務員が関係している訳でもなかったが、根底にある「目の前の事象に対する人間としての対応」と「ルールやシキタリといったものの重要性」とが、ぶつかってしまったケースと考える。「ルール」は、守らなければ「ルール」の意味がなくなるし、「シキタリ」は、尊重されてこそ継続性が担保されるものだ。

 救命士は処分されたが、これからも胸をはって仕事を続けて欲しい。疚(やま)しいことがないのであれば、処分は甘受し今後も救急救命活動を全(まっと)うして欲しい。

※画像と本文は関係ありません