ホリショウのあれこれ文筆庫

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第321話 松下幸之助の水道哲学とダム式経営

序文・文字通りナショナルブランドになった

                               堀口尚次

 

 松下幸之助1894年〈明治27年〉生まれは、実業家、発明家、著述家。パナソニック〈旧社名:松下電気器具製作所、松下電器製作所、松下電器産業〉を一代で築き上げた経営者である。異名は「経営の神様」。その他、PHP研究所を設立して倫理教育や出版活動に乗り出した。さらに晩年は松下政経塾を立ち上げ、政治家の育成にも意を注いだ。

 水道哲学は、松下幸之助の語録に基づく経営哲学である。幼少期に赤貧(せきひん)にあえいだ幸之助が、水道の水のように低価格で良質なものを大量供給することにより、物価を低廉(ていれん)にし消費者の手に容易に行き渡るようにしようという思想〈経営哲学〉である。松下曰く「産業人の使命は貧乏の克服である。その為には、物資の生産に次ぐ生産を以って、富を増大しなければならない。水道の水は価有る物であるが、乞食が公園の水道水を飲んでも誰にも咎(とが)められない。それは量が多く、価格が余りにも安いからである。産業人の使命も、水道の水の如く、物資を無尽蔵にたらしめ、無代に等しい価格で提供する事にある。それによって、人生に幸福を齎(もたら)し、この世に極楽楽土を建設する事が出来るのである。松下電器の真使命も亦(また)その点に在る。」とあり、物資を潤沢に供給することにより、物価を低廉にし消費者の手に容易に行き渡るようにしようという思想だ。

 ある講演会で松下氏が「ダム式経営」について講演を行った。ダム式経営とは、経営に必要な人・モノ・金に余裕を持った経営をする方法である。「工場を例にとって説明しよう。工場で機械が100%動いていなければ利益が出ないようでは、何かがあればすぐに利益が出なくなる。そうではなく、80%稼働でも利益が出るようにしなければならない。人も同様だ。社員の80%が働けば利益が出るようにすると経営に余裕が出る。銀行から融資を受ける時にも、返済に余裕があるようにする。これがダム式経営である。」

 ナショナルというブランドを、文字通りナショナル・ブランド〈流通業界の専門用語で、テレビCM等の宣伝で、固有名詞としての商品名を持ち、広く国民(消費者)に知られていることが多く、また全国どこでも入手できるような汎用ブランドのこと〉へ成長させた経営の神様・松下幸之助は、「水道哲学」や「ダム式経営」など『水』に纏(まつ)わる言葉が多い。松下政経塾出身の野田元総理大臣は、ナショナル=国家・国民の政治を目指せただろうか。