ホリショウのあれこれ文筆庫

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第323話 姥捨て山

序文・悲しい民話伝説

                               堀口尚次

 

 姥(うば)捨て山は、棄老(きろう)〈老人を山の中などに捨てること〉伝説に材をとった民話。大きく「枝折り型」と「難題型」、それらの複合型に分けられる。法令、口減らしなどのために高齢の親を山に捨てることとなった息子と、その親の物語である。

 「難題型」ある国の殿様が、年老いて働けなくなった者は役に立たないから山に捨てよという非情なお触れを出す。ある家でもお触れに逆らえず、息子は泣く泣く老親を山に捨てようとするが、結局捨てることができず、密かに家の床下にかくまって世話をする。しばらくの後、殿様が隣の国からいくつかの難題を持ちかけられ、解けなければこの国を攻め滅ぼすと脅されるが、息子はそれらの難題を老親の知恵によって見事に解いてみせる。隣の国は驚いて、このような知恵者がいる国を攻めるのは危険だと考え、攻め込むのをあきらめる。老人のすばらしい知恵のおかげで国を救われたことを知った殿様は、老人を役に立たないものと見なす間違った考えを改め、息子と老親にたくさんの褒美を与えると共に、お触れを撤回し、その後は老人を大切にするようになった。

 「枝折り型」山に老いた親を捨てるために背負っていく際に、親が道すがら小枝を折っている〈あるいは糠(ぬか)を撒いていく〉のを見た息子が何故かと尋ねると、「お前が帰るときに迷わないようにするためだ」と答える。自分が捨てられるという状況にあっても子を思う親心に打たれ、息子は親を連れ帰る。他に、年老いた親を捨てに行く際に子供も連れて行くが、担いできたモッコごと親を捨てようとする。すると子供から「おっ父を捨てるときに使うから、もっこは持って帰ろう」と言われ、親を捨てる非道さに気付き〈あるいは我が身に置き換えて恐怖を思い知ったため〉姥捨てをやめるという内容のものがある。

 私の母親も認知症が進行し、特別養護老人ホームに入所している。コロナ感染症のこともあり面会が儘(まま)ならないが、ようやく1年ぶりの再会を果たすことができた。私と父親と叔母の三人で面会したが、私たちのことは認知できていない様子だった。介護士さんから本日は特に元気がない旨を伺ったが、私としては姿が観られただけで満足した。勿論現在に姥捨て山はないが、年老いたお袋を一人後にした時に、後ろ髪を引かれる思いがしたことは事実だ。