ホリショウのあれこれ文筆庫

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第366話 内部留保

序文・富の再分配の難しさ

                               堀口尚次

 

 企業の純利益から、税金、配当金、役員賞与などの社外流出分を差し引いた残りで、「社内留保」ともいう。ひらたく言えば「企業の儲けの蓄え」のことだが、会計上は「利益準備金」「任意積立金」「繰越利益剰余金」などの項目で、貸借対照表の純資産の部に計上される。これまで外需拡大の恩恵に浴してきた日本企業、とりわけ輸出型製造業の内部留保は、欧米の企業に比べてきわめて厚いと指摘されている。実際、製造業大手2200社の利益剰余金は約72兆円(2007年)で、景気低迷期(02年)の55兆円から大幅に増加。一方、従業員の給与は22兆円から21兆円へとダウンしている。このため、景気後退局面に入った頃から、企業が抱える巨額の内部留保を労働者に還元すべきという論調が見られるようになった。当初は共産党や労組が主張していたが、雇用不安が深刻になった08年末~09年にかけて、政府閣僚からも同調する声が相次ぎ、雇用維持の財源として論じられるようになった。なお、企業は内部留保のすべてを現金(手元資金)として保有しているわけではない。本来、内部留保は設備拡充や技術開発などの再投資に回される性格のもので、12兆6千億円の連結利益剰余金をもつトヨタもその多くを設備増強に投じており、現預金は6分の1程度しか残っていない(08年9月末時点)。通常、企業が銀行から融資を受ける際には内部留保の厚みが重視される。戦後最悪と言われる不況下において、手元資金の枯渇や財務悪化による経営破綻を恐れる企業が増えており、内部留保を雇用維持の財源に充てることには消極的と見られる。

 しかし素人が考えても分かる通り、自分の会社で儲けた利益をどう使うのかは、その会社の自由だ。経営者からすれば、給料が安く〈労働分配率が低い〉て済むのであれば、これにこしたことはないだろう。但し給料が安ければ従業員は離れていくもの。設備投資や研究開発に資金を回さないのであれば、その会社は発展しないだろう。それもこれもその会社が決めることであり、内部留保は会社の自由であり、それが資本主義の仕組みであり、需要と供給のバランスを崩せば、自然と市場から淘汰される仕組みのはず。

 政府が民間企業の内部留保をあてにして、労働分配率の引き上げに加担するなどは、社会主義の考え方ではないだろうか。家庭においても、貯金〈内部留保〉とおこずかい〈労働分配率〉の駆け引きがあるのだ。