ホリショウのあれこれ文筆庫

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第368話 女王蜂の不思議

序文・君臨すれども統治せず

                               堀口尚次

 

 女王蜂は、群れで生活を行う真(しん)社会性〈動物の示す社会性のうち高度に分化が進んだもので集団の中に不妊の階級を持つことを特徴としハチやアリなどの社会性昆虫などに見られる〉を有するハチの集団において、繁殖に携わるの個体のことである。その群れの中で中心としてに単身で君臨するように見えることに由来するが、実際には群れを統率するというような行動や役割を有するものではなく、生物学的には生殖虫という。

 例えばミツバチ女王蜂の幼虫は4月~6月頃に巣の下端に作られる王台と呼ばれる独特な巣房中で育成され、ローヤルゼリーを大量に与えられる。ローヤルゼリーに含まれるロイヤラクチンが女王蜂分化を誘導する。産卵能力を持たない働き蜂に対して、女王蜂は大型で産卵機能のみが発達している。そのため、女王蜂は採集行動は一切行わず、産卵が主な仕事である。ミツバチの女王蜂は1分間に2個、1日で2000個の卵を産む。

 また、女王蜂は9オキソデセン酸を主成分とする女王物質を分泌して、働き蜂の卵巣の発達を抑え、集団の求心力となる。女王物質の生産能力が落ちると新たな女王蜂が誕生し、古い女王は別の場所に移って新たな巣を作る。同時に複数の女王蜂が育った場合、先に羽化した女王蜂が別の女王蜂を殺す。

 創作等では女王蜂と王蜂が巣に君臨しているように描かれる例もあるが、雄蜂は繁殖期以外にはあまり現れず、繁殖期を過ぎると働き蜂によって追い出される。

 これほどイメージと実像が違うのも珍しいと想い筆を執った。蜂の世界では、まさしく女王蜂様が君臨しており、下々(しもじも)の雄達が働き蜂としてせっせと働かされているものだと思い込んでいた。なんと働き蜂も繁殖能力を持たない雌蜂だったのだ。雄蜂は雌蜂より誕生する割合が極端に少なく、蜜の採取や巣作りなどにも参加せず、他の巣で育った女王蜂と交尾ができるまで、毎日結婚飛行に出かけ、交尾に成功した雄蜂は、生殖器をメスの体内に残したまま腹部をちぎり取られて死んでしまうという。なんという運命だろうか。

 昆虫の世界をほんの少しだけ垣間見てきたが、それは恐ろしい身の毛もよだつ世界だった。嗚呼人間に生まれてよかったなあとつくづく感じた次第でした。