ホリショウのあれこれ文筆庫

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第464話 不敬罪

序文・国家の名誉尊厳と言論の自由

                               堀口尚次

 

 不敬罪は、国王や皇帝などの君主・王族・皇族の一族と宗教・聖地・墳墓などに対し、名誉や尊厳を害するなど、不敬とされる行為の実行により成立する犯罪。日本国内においては、昭和22年の刑法改正により、天皇・皇后および皇族に対する不敬罪は廃止された。

 不敬罪の客体は、次の5種に分けられる。1.天皇 2.太皇太后、皇太后、皇后、皇太子、皇太孫など天皇に準ずる皇族 3.神宮 4.皇陵 5.普通の皇族 不敬罪の実行行為は、これらの客体に対して「不敬ノ行為」〈不敬行為〉を行うことである。不敬罪の法定刑は、1.〜4.の客体に対する罪は「3か月以上5年以下の懲役」とされ、5.の普通の皇族に対する罪は「2か月以上4年以下の懲役」とされた。

 不敬罪の客体のうち「ジングウ」は、伊勢神宮を指す。また、同じく「皇陵」は、かつて天皇に在位した歴代の天皇の墳墓と解された。なお、現在でも礼拝所不敬罪という罪名があるが、これは単に墳墓や神社仏閣の境内、教会堂全般に対する保護のためのもので、皇室とは直接関係ない。

 不敬罪の保護利益は、客体が体現〈象徴〉する国家の名誉と尊厳、および客体自身の名誉と解された。そのため、不敬罪は、一般人における名誉棄損罪や侮辱罪など、名誉に対する罪の一種とされた。しかし、「不敬ノ行為」〈不敬行為〉は、これら一般人における名誉に対する罪の実行行為よりも広い範囲の行為を含むとされた。また名誉毀損罪などが親告罪〈告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪〉とされるのに対して、不敬罪非親告罪とされた。

 不敬行為とは、客体に対する軽蔑の意を表示し、その尊厳を害する一切の行為を指すとされた。客体の行為の公私の別・即位の前後・事実の有無・事実の摘示の有無に関係なく、これら全てについて一切の行為、上は実際の名誉毀損・侮辱行為から下は神性〈現人神(あらひとがみ)であること〉に疑問を持つなどまでである。また、その行為は、第三者から認識し得ることを要するものの、公然・非公然の別を問わないため、日記の記述を不敬行為とした判例もあり、適用範囲はきわめて広かった。要求される敬意を不可抗力で払えない場合でも不敬行為とされた。