ホリショウのあれこれ文筆庫

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第471話 モンスター・カスタマーの闇

序文・闇シリーズ②

                               堀口尚次

 

 モンスターカスタマーとはウィキペディアによると、企業に対して理不尽ともいえるような要求をする者ということであり、現代社会においては増加している。モンスター・カスタマーを持つ企業が悩んでいるというのは、それはその顧客が企業に対して何を要求しているかが分からないからということからであり、モンスター・カスタマーに関する問題を解決する方法も分からないからである。そのカスタマーから要求を聞いたとしても、曖昧な事ばかりを言い、何を目的としているかということすら伝えることができていないからである。また顧客自身が明確な目的を持っていないという状態のこともあり、そのような状態から企業に対して新たな提案を求めてくるということもあり、このような事をする顧客というのがモンスター・カスタマーとして企業を悩ませているというわけである。

 私が過去の小売業で体験してきたのは、いわゆるクレーマーであり、単純に著しく人間性の乏しい、可哀そうな人たちからの嫌がらせだった。会社は「顧客第一主義」の名の下に、「お客様は神様」であり、誠心誠意の親切な接客を従業員に求める。若い頃は「商人」という響きに憧れ、商業思想家の岡田徹の『商売とは人の心の美しさを出し尽くす業(なりわい)。あなたの商人の姿に前だれをかけみ仏をみたい』の詩に感化もされたが、年齢を重ね小売現場での軋轢が増すごとに、商人としての感覚は削がれ、サラリーマンとして通勤給を貰うだけの落ちぶれ果てた人間になり下がって行った。

 こうして私は、「顧客第一主義」に洗脳されたふりをして、会社員の一員を全うすることに決めた。善良な客に親切に接客するのは容易(たやす)い。横柄な客は一歩間違えばクレーマーへと変貌する。私は小売業の現場で悲喜交々の人間模様を垣間見てきた。凡そそこは人間の器量が問われる場面の連続だった。

 小売業は接客業とも言われ、親切丁寧な接客は勿論のこと、高度な商品知識に裏付けられた接客が求められる。しかし、いくら親切丁寧にしても追い付かない商品知識は青天井にあり、またサラリーマンとしての限られた拘束時間内で、こなさなければならない仕事が常に山積している状態だった。

 そんな中でモンスター・カスタマー〈クレーマー〉に遭遇してしまった時の喪失感は、勤労のモチベーションを完全に低下させるものだったのだ。