ホリショウのあれこれ文筆庫

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第494話 棚卸業務の闇

序文・闇シリーズ⑥

                               堀口尚次

 

 私が勤務していた会社では、「棚卸」という業務があり、実際にある商品の数量をカウントし、「帳簿上の在庫〈あるべき数量〉」との差異を算出する業務だ。この業務は労力と時間のかかる大変な作業だった。1カ月程度前から事前作業に取り掛かり、本番では丸一日かけて数量カウント作業を実施する。

 大変な作業だが、この「帳簿上の在庫数」と「実際に数えた数量」の差異は大変重要で、会社の利益管理には欠かせない業務となっている。要は会社の決算報告に深く関わっているのだ。だから、この業務の不正は「粉飾決算」に繋がるものだと思う。

 私はこの会社をすでに退職したが、勤続35年間の内で一度だけだが、前述した「棚卸業務における粉飾決算まがいの不正行為」を上司〈所属長〉から強要されたことがある。実際に行った内容は、実際にある商品の数量をカウントするのではなく、帳簿上の在庫〈コンピューター上で表示される現在の在庫数量〉を、ひたすら入力していく〈実際に数えた事にして〉単純作業を何時間もさせられたのだ。但し、棚卸業務の当日は本社から監査が入るため、その監査人に気づかれないように、秘密の部屋が用意され文字通り用意周到に行われたのだった。

 私はこの不正行為を数カ月前から知らされており、青臭いかも知れないが不正に手を染めることへのうしろめたさがつのり、やりきれない日々を過ごしていた。但し、この不正行為は所属長の命令であり、私同様に数名の社員に詳細が通達されており、他の従業員には箝口令がしかれていた。

 本来の目的である、「帳簿上の在庫」と「実際に数えた数量」の差異の算出のはずが、「帳簿上の在庫」と「帳簿上の在庫」の差異になるから、差異はでなくなってしまうので、まったく本末転倒な無意味な無駄な作業なのだ。

 勿論すべての商品在庫に対して行った訳ではないが、かなりの割合でこの不正行為が実施された。しかしこのことで所属長としては、全体の数値結果を調整することができたのだろう。まったくの粉飾である。

 会社がこのことに気が付いていても、見て見ぬふりをした可能性も完全にないとは言い切れない。組織が大きくなればなるほどその組織は腐って行くのだということを実感した。そして告発しなかった私もその歯車の一員だったのだ。

※画像と本文は関係ありません