ホリショウのあれこれ文筆庫

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第497話 丑の刻参り

序文・草木も眠る丑三つ時

                               堀口尚次

 

 丑の刻参(うしのこくまい)り丑の時(とき)参りとは、丑の刻〈午前1時から午前3時ごろ〉に神社御神木に憎い相手に見立てた藁人形を釘で打ち込むという、日本に古来伝わる呪いの一種。典型では、嫉妬心にさいなむ女性が、白衣に扮し、灯したロウソクを突き立てた鉄輪を頭にかぶった姿で行うものである。連夜この詣でをおこない、七日目で満願となって呪う相手が死ぬが、行為を他人に見られると効力が失せると信じられた。ゆかりの場所としては京都市貴船神社が有名。ただ、貴船神社は24時間開門していないため実際には着手不可能である。

 一般的な描写としては、白装束を身にまとい、髪を振り乱し、顔に白粉を塗り、頭に五徳〈鉄輪〉をかぶってそこに三本のロウソクを立て、あるいは一本歯の下駄〈あるいは高下駄〉を履き、胸には鏡をつるし、神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を毎夜、五寸釘で打ち込むというものが用いられる。五徳は三脚になっているので、これを逆さにかぶり、三本のロウソクを立てるのである。

 呪われた相手は、藁人形に釘を打ちつけた部分から発病するとも解説される。ただし藁人形など人形〈ひとかた〉の使用は江戸期までに必ずしも確立しておらず、例えば鳥山石燕の『今昔画付図続百鬼』の添え書きにも言及されていないし、画にも見えない。

 小道具については解説によって小差があり、釘は五寸釘であるとか、口に櫛を咥える、などがある。参詣の刻限も、厳密には「丑のみつどき」〈午前2:00-2:30〉であるとされる。

 石燕や北斎の版画を見ても、呪術する女性のかたわらに黒牛が描かれるが、七日目の参詣が終わると、黒牛が寝そべっているのに遭遇するはずなのでそれをまたぐと呪いが成就するという説明がある。この黒牛に恐れをなしたりすると、呪詛の効力が失われるとされる。

 「丑の刻」も、昼とは同じ場所でありながら「草木も眠る」と形容されるように、その様相の違いから常世へ繋がる時刻と考えられ、平安時代には呪術としての「丑の刻参り」が行われる時間でもあった。また「うしとら」の方角は鬼門をさすが、時刻でいえば「うしとら」は「丑の刻」に該当する。