ホリショウのあれこれ文筆庫

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第512話 トルハルバン

序文・シンボルになった守護神

                               堀口尚次

 

 トルハルバンは、韓国の済州島(さいしゅうとう)〈チェジュトウ〉にある石像である。済州島の方言で「石製の爺さん」を意味する。初めて制作されたのは、李氏朝鮮時代1754年頃とされている。トルハルバンという言葉は、1971年に済州民族資料第2号で指定されて以降、正式名称として使用される。済州島各地で約45のトルハルバンがあるが、その石像の形と表情は少しずつ異なる。大きい目、鼻。唇は閉じた顔で、韓国伝統の帽子〈モジャ〉をかぶり、両手を腹部で合わせるのが共通の特徴。平均高約180cm。トルハルバンは済州島の象徴であり、街の入口などに立てられ守護神と呪術的な宗教機能を兼ね備えている

 済州島は、朝鮮半島の南西、日本海東シナ海黄海の間にある火山島。その付属島嶼(とうしょ)と併せて大韓民国済州特別自治道を構成する。人口は約66万人、面積は1,845km²。現代ではソウルを超える観光地となっている。

 済州島の特徴を言い表すのに、三麗三多、および三無という言葉がある。三麗とは、美しい心・素晴らしい自然・美味しい果物といった島民の心や景観の美しさ、特産物を意味する。三多とは、「石と風と女の3つが多い」という意味。火山島であるため、火山の噴火により流出した火山岩が多く、台風が度々通過する上、季節風の吹く地域であり、またかつては漁労のため海に出て遭難するなど男性の死亡率が高かったことに由来している。三無とは、「泥棒がいない」「乞食がいない」「外部からの〈泥棒と乞食の〉侵入を防ぐ門が無い〈必要無い〉」という意味を表す。かつての済州島は、厳しい自然環境を克服するため協同精神が発達しており、そのことも前述の3つが無かった〈あるいは必要とされなかった〉とされてきた所以とされる。そのために韓国本土に住む人々の気性の激しさとは対照的に性格も温和で純朴だと言われる〈日本国内各地に点在するコリアンタウンでも済州島出身者は、古くから同島出身者を「流刑地住民の子孫」として差別してきた韓国本土出身者を避けて集結していた〉。

 トルハルバン〈石じいさん〉は、もともと朝鮮時代の行政区域である3つの郡・県のそれぞれの東・西・南門の入口に立てられた、村の災厄を追い払う守護神〈道祖神〉であったが、現在は済州島のシンボルとして各地に立てられ、土産物としてトルハルバンを模した置物が製作・販売されている。