ホリショウのあれこれ文筆庫

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第528話 「虫送り」と「虫供養」

序文・農作と虫は切っても切れない縁

                               堀口尚次

 

 虫送りは、日本の伝統行事のひとつ。農村において、農作物につく害虫を駆除・駆逐し、その年の豊作を祈願する呪術的行事である。虫追いなど、西日本では実盛(さねもり)送りまたは実盛祭など数多くの別名がある。

 虫による害は、不幸な死をとげてしまった人の怨霊と考える御霊信仰に関係した、「害のあるものを外に追い出す」呪いの一つである。神社で行われる紙の形代(かたしろ)に穢れを移す風習との共通性が見られる。春から夏にかけての頃〈おもに初夏〉、夜間松明(たいまつ)を焚いて行う。また、藁人形を作って悪霊にかたどり、害虫をくくりつけて、鉦(かね)や太鼓を叩きながら行列して村境に行き、川などに流すことが行われる地域もある。地域によっては七夕行事と関連をもって行われる。かつては全国各地に数多く見られたが、農薬が普及するに連れて害虫の脅威が低減したことに加え、過疎化、少子高齢化、米価の下落などによる農業の衰退と、その結果としての担い手不足も大きく影響し、次第に行わない地域が多くなっていった。火事の危険などを理由に取り止めた地域もある。現在行われているものも、原形を留めるものは少ないといわれている。農業と地域社会に深く関わる伝統行事であるため、その保存には農業および地域社会の活性化と維持が不可欠で、大きな課題となっている。

 虫供養とは、 農夫が耕作の時、心ならずも虫類を多く殺すので、僧に請うて供養すること。地方によって、日は違うが、10月10日前後に行なうところが多い。筆者の地元知多半島阿久比谷虫供養は町内各地区の持ち回りで当番を受け持ち、当番になる地区では寒干しや土用干しをはじめ1年をかけ、虫供養当日を迎える。1番から8番まである小屋をひとつずつ回りながらお参りをする。各小屋にはそれぞれ掛軸が掛けられている。会場内にたてられた大塔婆で、松の柱に文字が書かれたものだ。その下の砂山を小さな子どもに踏ませると「かんの虫封じ」になると伝えられている。かんの虫とは、かんしゃくを引起すとされる虫で、砂を踏むと健康で我慢強い子に育つとされている。午後になると道場から「南無阿弥陀仏」「南無阿弥陀仏」の念仏が聞こえ、百万遍念仏のスタートだ。静かに手を合わせ虫供養と豊作の感謝をする。