ホリショウのあれこれ文筆庫

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第603話 引き揚げ

序文・国歌に翻弄された国民

                               堀口尚次

 

 引き揚げとは、昭和20年8月15日に日本が第二次世界大戦で連合国に降伏したことを受け、日本の外地 や日本軍占領地 または内地のソ連軍被占領地 に生活基盤を有する一般〈民間〉日本人が日本の本土〈内地〉へ戻されたことをいう。引き揚げの対象となった者は引き揚げ者と呼ばれ、引揚者給付金等支給法や引揚者等に対する特別交付金の支給に関する法律によって給付行政の対象とされた。台湾など比較的順調に進んだ地域もあれば、侵攻してきたソ連軍や現地軍民による襲撃や抑留、飢餓などで犠牲者が出た地域もある。中華民国支援のため不安定要因たりえる日本人の本国送還をアメリカ合衆国が重視するなど、各勢力の思惑が影響した。

 昭和20年8月14日、日本政府は全面的なポツダム宣言受諾を連合国に伝達し、翌8月15日に昭和天皇の日本国民に向けた玉音放送を通じて日本が降伏する旨の『終戦に関する詔書』を発表した。これにより日本政府は、以下の義務を負うことになった。「1.無条件降伏の宣言 2.軍の武装を完全解除 3.植民地占領地の放棄 4.連合国による占領の受け入れ 5.戦争犯罪人に対する処罰に応ずること」 軍人・軍属の復員については、ポツダム宣言第9項が「日本国軍隊は、完全に武装を解除せられたる後各自の家庭に復帰し、平和的且生産的の生活を営むの機会を得しめられるべし」とあった。ここから「復員」という言葉が生まれる。これに対して、一般人の帰還については、具体的規定はなく、わずかに同宣言の第8項「日本国の主権は、本州、北海道、九州、四国並びに吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」があるのみであった。

  日本国外にいる軍人、軍属は陸軍が308万人、海軍が45万人であり、合わせて353万人にのぼった。これに一般人300万人を加えた、約660万人が海外にいたことになる。

 昭和20年9月2日の連合軍総司令官マッカーサーによる『日本政府宛一般命令第1号』によって、それぞれの軍管区の司令官のもとに降伏することになった。その結果、軍人・軍属および一般人を含め全ての日本人は、上記軍管区ごとの軍隊の支配下に入った。日本人の取り扱いに関しては、各国の軍隊ごとに大きな違いがあり、まさに生死を分けるものといえた。