ホリショウのあれこれ文筆庫

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第636話 十五の森伝説

序文・人身御供

                               堀口尚次

 

 十五の森は、洪水を鎮めるために少女を人柱にした、愛知県春日井市に伝わる民話。

 昔、現在の愛知県春日井市松河戸町にあたる地域では、毎年のように庄内川が氾濫していた。明応3年、村人がそのことで氏神の境内で話していると、陰陽師(おんみょうじ)が通りかかったので相談した。陰陽師は「水神様に15歳の娘を捧げれば、水神様の怒りはおさまる」と告げ、15歳の娘をもつ親たちがくじ引きを行った。その結果、庄屋矢野家の娘が人柱に決定し、親子は泣く泣く受け入れる。6月29日、悲嘆のうちに白木の箱に入れられた娘は、頻繁に堤防が決壊する場所に埋められた。娘はそれから1週間棺の中で生き、一緒に入れた鐘を叩く音が地中から聞こえたという。それから水害がなくなり、村は平和となった。当時、埋められた場所に雑木林があったため、そこが「十五の森」と呼ばれるようになった。

 村人は娘を弔うため、小祠を建て、薬師如来を安置した。薬師如来は江戸時代の中頃に観音寺に移され、毎年命日の6月29日には供養が行われていたが、現在は、11月8日に供養が行われている。

 市の史跡となっている「十五の森」は、中央線勝川駅から南へ1キロメートルほどの愛知電機工作所南側駐車場の中にある。昔、この辺りは一面水田だった。通称で六升池、堤越、十五、砂入などといった庄内川氾濫の跡を示す地名が現在も残ってる。
 松河戸の観音寺には、この童女の位牌と共に、童女の霊を鎮めるために造った薬師如来の像が祀られている。江戸時代の中頃この薬師如来の由来について書かれた「十五薬師記」もある。また、観音寺の門前には、童女童女の母の霊を慰めるために昭和44年5月、石の親子地蔵尊が地元の有志によって建立された。
 因みに人柱とは、人身御供(ひとみごくう)の一種。大規模建造物〈橋、堤防、城、港湾施設、など〉が災害〈自然災害や人災〉や敵襲によって破壊されないことを神に祈願する目的で、建造物やその近傍にこれと定めた人間を生かしたままで土中に埋めたり水中に沈めたりする風習を言う。