ホリショウのあれこれ文筆庫

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第651話 分類学上はイルカは存在しない

序文・クジラに乗った少年

                               堀口尚次

 

 イルカ〈海豚、鯆〉は、哺乳類偶蹄目(ぐうていもく)〈鯨偶蹄目〉に属する鯨類の内、小型の種の総称である。なお、イルカとクジラは分類学的には明確に区別されない

 分類学上は、「イルカ」に相当する系統群は存在しない。一般的にはハクジラ類に属する生物種のうち比較的小型の種類を総称して「イルカ」と呼ぶことが多いが、その境界や定義についてははっきりしておらず、個人や地域によっても異なる傾向がみられる。

 同様にして、「クジラ」の定義もはっきりはしていない。これらは人為分類の1つであり、ヒトの伝統や文化によって成立しているため、生物学的な根拠は認められていない。

 世界的にも日常語レベルではイルカとクジラは別のカテゴリーとして認識され、別の名で呼ばれることが多い。一方で、「イルカ」というグループは「クジラ」に含まれるサブグループとして扱われることもある。

 日本語では、成体の体長でおよそ4mをクジラとイルカの境界と考えることが多い。これは定義ではなく、実際に○○クジラ、○○イルカと呼ばれている種の体長から帰納した傾向に過ぎず、4 m基準に当てはまらない種もある。例えば、コマッコウやゴンドウクジラのような4 mに達しないがクジラと見なされる種も多い。文献によっては、3 mという基準で分類しているものもある。ゴンドウクジラは生物学的にはマイルカ科に属するため、まれにイルカとされることがある。イッカク科のシロイルカは、和名に「イルカ」とついているが、成体は5 mに達するためクジラと見なされることもある。

 ヒトが「可愛い」と感じる種を「イルカ」と呼ぶとする説もある。

 このように、イルカとクジラの定義や分類は個人や地域によって差異が見られており、安易な区別は誤解や混乱を招く恐れがある。実際にはハクジラヒゲクジラとの差の方が生態的にも形態的にも違いが顕著であり、また遺伝的に見ても進化系統が独立している。そのため、学術論文や専門的な書籍などでは通常こちらの区別が用いられる。

 因みに、シャチも鯨偶蹄目〈マイルカ科シャチ属〉に属している。