ホリショウのあれこれ文筆庫

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第653話 賓頭盧尊者

序文・おびんづるさん

                               堀口尚次

 

 賓頭盧(びんずる)は、釈迦の弟子の1人。獅子吼(ししく)〈熱弁をふるって真理・正義を説くこと〉第一と称される。名前の意味は、不動、利根(りこん)〈教えを受けて修行する者の性質資質がすぐれていること〉という。十六羅漢の第一。バーラドヴァージャはバラモン十八姓の中の一つである。博識であり慈悲深く十善を尊重し、阿羅漢果を得て神通力を得た。白髪長眉の相があったといわれる。彼の説法が他の異論反論を許さずライオンのようであったため獅子吼第一といわれるようになった。優填王が仏教に帰依したのは、夫人の勧めという説もあるが、賓頭盧尊者の説法によるとも伝えられる。

 釈迦仏がコーサンビーに在したある時、王は彼を尊重し、常に住して求法問訊(ぐほうもんじん)〈仏の道を聞きただす〉した。ある時、賓頭盧尊者が起立して王を迎えなかったことを、不信楽バラモンの大臣が見て悪心をもって王に告げると、王は「明日、まさに往くべし。もし起立せずば賓頭盧の命を奪うべし」といった。翌朝、賓頭盧尊者がはるかに王が来るのを見て便(すなわ)ち遠く迎え、先呼し、「善来大王」といった。王は「昨日はなぜ立って迎えなかった」と問うと、尊者は「汝の為なり」と答えた。王は「何が我が為か」と問うと、「昨日は善心をもって来られたが、今日は悪心をもって来られた、もし我が立たなければ、まさに我が命を奪うだろう。もし我が命を奪えば地獄に堕す。もし立って迎えれば、汝は王位を失うであろうが、もしろ王位を喪失しても地獄には堕させん、と考えたので起立して迎えた」と答えた。王は「いつ王位を失うのか」と問うと、「却って7日の後に必ず王位喪失す」と答えた。王は驚いて帰り、城を修治し集兵し警備した。しかし7日を過ぎても敵が現れず、尊者の言を否定し多くの采女(うねめ)と船に乗り遊戯したが、慰禅王国の波羅珠提王に捕えられ、7年間も禁固されたといわれる。

 日本ではこの像を堂の前に置き、撫でると除病の功徳があるとされ、なで仏の風習が広がった。この像を「おびんづるさん」「おびんづるさま」と呼んで親しまれてきた。ことに、東大寺大仏殿の前にある像が著名である。

 長野県の善光寺賓頭盧尊者の木像座像を盗んだ男が逮捕されたが、お釈迦様もさぞかし呆れていることだろう。