ホリショウのあれこれ文筆庫

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第660話 空間識失調

序文・平衡感覚の喪失

                               堀口尚次

 

 空間識失調とは、平衡感覚を喪失した状態。バーティゴともいう。平常時における平衡感覚を喪失した失調状態において起こる、めまいなど。

 主に航空機のパイロットなどが飛行中、一時的に平衡感覚を失う状態のことをいう。健康体であるかどうかにかかわりなく発生し、高機動状態下で三半規管からの知覚と体感する平衡感覚のズレから機体の姿勢〈傾き〉や進行方向〈昇降〉の状態を把握できなくなる、つまり自身に対して地面が上なのか下なのか、機体が上昇しているのか下降しているのかわからなくなる、非常に危険な状態。しばしば航空事故の原因にもなる。

 視界不良や夜間飛行など、地平線〈水平線〉が見えない状況で飛行する場合に特に陥りやすく、また視界が広くとも雲の形や風などの気象条件、地上物の状態などの視覚的な原因、機体の姿勢やG〈重力加速度〉の変化などの感覚的な原因によって陥ることがある。

 身近な例にスイカ割りがあり、この他にも目隠しをした状態でその場で数回回ってから真っすぐ歩けるかどうか、同様に目隠しした状態でその場で足踏みをして表示からどれ位ズレているのかを知る身体測定方法などがある。

 視覚と体感の差によって引き起こされると思われがちであるが、それに限らない。極端な例として、背面飛行をした状態で、1Gで緩上昇の操作を行うとする。つまり、背面飛行をしたまま、1Gで緩やかに地面に向かって降下すれば、機内では、床に向かってGがかかるため、体感上は通常の緩上昇と全く変わりない感覚でしかない。

 ジェット戦闘機では旅客機をはるかに越える運動能力のために、真昼でも海と空の区別がつかなくなることもある。

 ベテランのパイロットといえども程度の差こそあれ必ず陥る症状でもある。空間識失調に陥った場合は、自身の感覚よりも航空計器の表示を信じて操縦することが最善とされる。ゆえに計器の誤差や故障は死活問題となる。近年ではAI〈人工知能〉による機体制御機能の導入も検討されている。