ホリショウのあれこれ文筆庫

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第669話 車寅次郎は香具師

序文・結構毛だらけ猫灰だらけ

                               堀口尚次

 

 香具師(やし)とは、祭礼縁日における参道境内門前町、もしくはが立つ所などで、露店で出店や、街頭で見世物などのを披露する商売人をいう。

 古くは、香具師(こうぐし)とも読み、主に江戸時代では歯の民間治療をしていた辻医者や、軽業(かるわざ)・曲芸・曲独楽(きょくこま)などをして客寄せをし、薬や香具を作ったり、売買していた露天の商売人を指した。明治以降においては、露店で興行・物売り・場所の割り振りなどをする人を指し、的屋(てきや)や三寸(さんずん)とも呼ばれる。これらの仕切り、管理は一般に賤民(せんみん)〈人別帳に記載のない人物、無宿人〉いわゆるヤクザの仕事であり、時代劇や講談で「香具師の元締」といえばヤクザの親分とほぼ同義。

 元禄3年の発行の『人倫訓蒙図彙(じんりんきんもうずい)』では江戸、大阪、京都の城下町や港町において、丸薬(がんやく)や鬢(びん)付け油売りや傀儡(かいらい)回し〈操り人形〉や物真似芸や蛇見せ芸などを披露する大道芸人の様子が記載されている。

 享保20年に、「十三香具師」という名で初めて「香具師」という職業名が使われた文書『故事類苑』の産業の部『香具師一件』が残っている。この十三は「丸、散、丹、円、膏、香、湯、油、子、煎、薬、艾、之古実」などの薬や香や実などを十三香具としている。『香具師一件』に記述によると「諸国名産の薬の仲卸」「薬の製造と販売と、口蓋、口腔、歯科治療」「お笑い芸にて、客寄せする薬売り」「お笑い芸の見世物」「居合抜刀芸」「独楽廻し」「軽業」「曲鞠」「按摩治療と膏薬売りの辻医師」「その他の諸たる見世物」「日限売薬」「施シ治療薬」「艾(もぐさ)、火口売り」「往来触売薬」「歯磨売り」「紅白粉売」「小間物売り」「薬飴売り」「薬り菓子売り」「その他、市場、盛り場での往還商人」などとなっている。

 1800年代中盤に江戸・大阪の風俗を記した『守貞謾稿(もりさだまんこう)』は、口上(こうじょう)やちょっとした芸で人を集め、薬などを路上で売る職業として「矢師(やし)」を紹介している。元は野武士などが貧窮から売薬をしたのが始めとし、「歯抜き」の有名どころとして大阪の松井喜三郎、江戸の長井兵助玄水を挙げ、抜刀や居合、独楽などを見せて人を集め、歯磨き粉や歯の薬を売るほか、歯の治療や入れ歯なども扱ったと記している。

 映画「男はつらいよ」の寅さんこと車寅次郎は、まぎれもなく香具師なのだ。