序文・武家の礼法
堀口尚次
折り紙とは、紙を折って動植物や生活道具など色々なものの形を作る日本伝統の遊びである。また、折り上げられた作品そのものや、折り紙用に作られた正方形の専用紙、千代紙などのことを指す。分類の仕方により、儀式儀礼で使う紙で折った工作物や、室町時代に整えられた上級武家が和紙で物を包むために用いていた折形〈折形礼法〉も「儀礼折り紙」として折り紙に含む場合があるが、日本では一般的には、戦国時代頃には存在し江戸時代頃に庶民に広まった「遊戯折り紙」のみを指す。
一般的に折り紙と認識されている遊戯折り紙の起源は定かでないが、最古の証拠として1500年代末の戦国時代から1600年代初頭の江戸時代までに装剣金工師の後藤栄乗が作った小柄に折り鶴が描かれているため、この頃までには既に折り紙が存在したことが確認されている。紙を折る文化はヨーロッパなどでも独自に発達しているが、現代では日本語の発音を移した「ORIGAMI」という呼称が海外でも広く使われている。
儀礼折り紙という概念で見ると、平安時代に日本独自の和紙製紙法である「流し漉(す)き」が開発されてより頑丈な紙を作ることができるようになると、折った和紙は神社の御幣・大麻・紙垂(しで)として使われるようになり、折った紙で作られた宗教的な装飾や贈答品の包み紙は徐々に儀礼折り紙として確立した。平安時代には朝廷は儀式で使う金品を折った紙で包む方法を定めていた。
室町時代の3代将軍、足利義満が武家独自の礼法を明確に定め、後世に最も由緒正しく記録された文献を残した。礼法の指南役である高家〈伊勢家、小笠原家、今川家〉のうち、伊勢家は主に内の礼法〈殿中の礼法〉、小笠原家は主に外の礼法〈主に弓馬礼法〉、今川家〈後の吉良家〉は主に書と画の礼法を担当し、それらの礼法は、将軍、大名、旗本に限って口頭で教授するか、または雛形を使って上級武士の間で秘伝として伝承された。
その武家の礼法の一つが折形、折紙礼法、または折紙であり、和紙を手づから折り目正しく折り、物に心を込めて包み渡す礼法である。特に8代将軍足利義政の時代の伊勢貞親は殿中における多くの礼法を定め、折形〈折紙礼法〉が整えられた。