序文・身銭を切る
堀口尚次
自爆営業とは、企業の営業活動において、従業員が自己負担で商品を購入し、売上高を上げる行為のこと。自爆契約、自腹契約とも。ノルマ達成と各店舗、営業所の販売、営業成績のために行われる。営業成績のために身銭を切る行為を自爆になぞらえた比喩表現である。
元々は、日本郵便株式会社の組織内で呼ばれるようになった言葉で、電子メールやSNSが普及していなかった郵政省時代や日本郵政公社時代でも、売れない郵便商品の自爆営業は行われ、ノルマの達成を当たり前と思い込む風潮が広まっていたが、郵政民営化以後の利益追求より、一層の営業を求めている。そのため、職員にお年玉付郵便はがきなどの販売ノルマを割り当てており、その際、販売数未達分については、職員が差額分を自腹で対応しそれが高額となったことと、ノルマ達成に対する手当が出ないことが問題視されるようになった。
郵便局局員は、大量に購入したお年玉付き年賀はがきを、金券ショップに売りに行くのが恒例行事となっていた。
第2次安倍内閣の内閣官房長官菅義偉は、平成25年の総理大臣官邸での記者会見で、この問題を前日に報じていた朝日新聞社の記者から日本郵便の自爆営業についての質問を受け、「販売目標の設定について一般の経営の在り方として問題ではないとし、無理な販売促進はあってはならないと日本郵政も認識している、そう言うことはないと報告を受けている」と答弁。しかし、先述の新聞報道があったため、日本国政府が日本郵便株式会社の全株式を保有していることもあり、総務省に注意・注視を指して、活かしたいとした。
平成29年入り、コンビニエンスストアではアルバイト店員に恵方巻やクリスマスケーキなど特定の日時を過ぎたら大幅に価格が下落する食品の自爆営業を課す例が相次いだ。オーナーに予約50件~100件のノルマを課した例をはじめ、数十本程度のノルマがあったという報告が多く、ノルマを達成できない場合は、自ら買い取る「自爆営業」を行う事もある。NHKは、ニュース番組で「そうした例」を取り上げ、労働組合の相談窓口には売れ残りの数万円分を給料から天引きされた例なども寄せられたと報じた。
こうした事例は、労働基準法第24条に違反し違法行為になる。ある大手コンビニ広報は「本部が主導していることは一切なく、加盟店で不正があれば対処する」と答えているが、実際に対処した例はなかった。しかし、労働組合の首都圏青年ユニオンの執行委員長は、J-CASTニュースの取材に対し、本部が加盟店に恒常的に売り上げを上げるよう圧力をかけている構造的な問題であり、そのしわ寄せが末端のアルバイト店員に向けられたものであるとみている。また万が一、上司との人間関係の中で断り切れずに買い取らされた場合などは、あきらめず支払いを記録するなど証拠を残せば、後で取り返せる可能性が高いと説明している。
保険会社の営業の場合には、自分に加えて家族の名義で契約を結ぶが、その際の保険料負担において社員割引などの形式で行われていることもある。農業協同組合〈JA〉が販売する「JA共済」に関しても、保険を販売する職員がノルマを課せられ、中には借金をした人もいて問題となった。
大手電気メーカーのシャープは、2015年、全社員〈17,436人〉を対象とした、自社製品購入を促す「シャープ製品愛用運動」を開始。また、専用サイト「特別社員販売セール」を開設し、役員20万円、管理職10万円、一般社員5万円を目標とした自社製品の購入の呼びかけを始めた。購入額の2%が販売奨励金としてバックされる。会社側は、イントラネット上で社員の購入状況をチェックし、誰がいくら使ったかまで把握するとしている。
また、刑務所の刑務作業においても、自爆営業が行われている。長崎刑務所で刑務作業の指導を担当していた元職員が、在職していた2011年に、墓石の修理代など200万円以上を自己負担するなどの自爆営業を行っていたことが、毎日新聞で報じられた。他の刑務所でも同様なことが行われているという、有識者から指摘されている。
直接規制する法律はないが、1.優越的な関係を背景とした言動、2.業務上必要かつ相当な範囲を超える、3.労働者の就業環境を害するなどの3要件を満たした場合、パワハラと判断される。パワハラと判断された後、パワハラ防止法により企業は対策を講じる義務が課される。
ノルマ未達のペナルティーとして自社商品・サービスの購入代金などを要求されたり、事前に違約金額が設定されていた場合は労働基準法第16条に抵触する可能性がある。また、ノルマの未達分を天引きする形でペナルティーとする場合は、第24条に抵触する可能性がある。