ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1271話 軍人用が発祥のランドセル

序文・大正天皇の入学祝

                               堀口尚次

 

 ランドセルは、日本の多くの小学生が通学時に教科書、ノートなどを入れて背負う鞄である。江戸時代幕末幕府が洋式軍隊制度幕府陸軍を導入する際、将兵の携行物を収納するための装備品として、オランダからもたらされた背嚢(はいのう)バックパックオランダ語呼称「ranselオランダ語」(「ランセル」または「ラヌセル」)がなまって「ランドセル」になったとされる

 幕末の教練書である『歩操新式』の元治元年版にも「粮嚢」の文字に「ラントセル」の振り仮名が付されているほか、画像としては一柳斎国孝筆の双六(すごろく)『調練仕方出世寿語禄』に描かれている、韮山笠を被った兵士が背負っている鞄がそれとみられる。これは昭和前期までの通学用ランドセルに形状がよく似ており、この背嚢がルーツであることがわかる。

 明治時代以降、本格的な洋式軍隊として建軍された帝国陸軍においても、歩兵など徒歩本分者たる尉官や准士官、見習士官、および下士官以下用として革製の背嚢が採用された。通学鞄としての利用は、官立の模範小学校として開校した学習院初等科が起源とされている。創立間もない明治18年学習院は「教育の場での平等」との理念から馬車・人力車による登校を禁止、学用品は召使いではなく生徒自身が持ち登校すると定めたことから、通学鞄としてランセルが導入された。

 明治20年、当時皇太子であった嘉仁親王後の大正天皇学習院初等科入学に際して、伊藤博文が祝い品として帝国陸軍将校背嚢に倣った鞄を帝室に献上、これに近い形状が現代のランドセルの基礎とされる。革を使っているため高級品であり、第二次世界大戦前は都市部の富裕層の間で用いられることが多く、地方や一般庶民の間では風呂敷や安価な布製ショルダーバッグ等が主に用いられていた。ランドセルが全国に普及したのは戦後の昭和30年代以降、高度経済成長期を迎え、人工皮革が登場した頃からと言われる。

 2014年3月頃、女優ズーイー・デシャネルが赤いランドセルを背負った写真が出回り、若い人たちの間でもランドセルを身に着けることがブームとなりつつある。近年では、日本のアニメ作品などを通じてランドセルの存在を知った外国人が、日本旅行時に土産として購入し持ち帰る例が増えており、空港の免税店など、外国人向けの商店で売られていることもある。