ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1274話 双六と徒然草

序文・賭博の道具

                               堀口尚次

 

 すごろく〈双六、槊〉とは、サイコロを振って、出た目に従って升目にある駒を進めて上がりに近づける盤上遊戯ボードゲーム〉。古代インドの発祥で、日本では奈良時代に中国から伝来した。

 すごろくには二人で対戦する盤双六と複数人が競争して上がりを目指す絵双六の2種類がある。江戸時代には盤双六と絵双六が共にすごろくと呼ばれていたため、混乱が生じた。盤双六は幕末期に廃れ、現在では、双六と言えばほぼ確実に絵双六を指す。

 絵双六というのは、上記の盤双六の影響を受けて発達した遊戯で、紙に絵を描いてさいころを振って絵の上のマスの中にある駒を進めて上がりを目指すものである。ただし、かなり早い段階で〈賭博の道具でもあった〉盤双六とは別箇の発展を遂げていった。

 さいころを2個振り、双方とも最大値である6のゾロ目がいかに出るかが形勢を左右したゲームであったため、「雙六」あるいは異字体として「双六」という字が当てられるようになった〈「雙」・「双」は同じ意味を持つ〉という説がある。しかし、日本の遊戯の歴史における先駆的な研究家である増川宏一は、江戸時代以前の日記などの記録類においては誤記と思われる少数例を除けば「雙六」と「双六」の使い分けがはっきりとしていること、日本語以外の言語でも盤双六系遊戯と絵双六系遊戯にはそれぞれ違う単語があてられているのがほとんどであることから、両者は同じ「すごろく」であっても全く別な遊戯であり、雙六〈盤双六〉に「双六」という表記を用いるのは不適切であると唱えている。

 吉田兼好徒然草第一一〇段に以下の表記がある。

双六の上手といひし人に、その行を問ひ侍りしかば、「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。いづれの手かとく負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目なりともおそく負くべき手につくべし」といふ。』

【口語訳】双六の上手という人に、そのやり方を質問しました所、「勝とうとして打ってはならない。負けまいとして打つべきだ。どの手を打てば早く負けるだろうと考えて、その手を使わずに、一目でも遅く負けるようなやり方をすべきだ」と言う。