序文・新幹線電気軌道総合試験車
堀口尚次
ドクターイエローは、東海道新幹線・山陽新幹線区間において使われていた、点検用新幹線車両の愛称。車体が黄色い〈イエロー〉ことから、こう呼ばれる。事業用車であるが、乗客を運ぶ営業用新幹線車両と同じ条件で走行しながら線路の歪み具合や架線の状態、信号電流の状況などを検測し、新幹線の軌道や電気・信号設備の状態を確認する。かつては東北新幹線や上越新幹線、長野新幹線〈現在:北陸新幹線〉でも使われていたが、これらは「East i」に置き換えられた。
「ドクターイエロー」は通称であり、正式名称は「新幹線電気軌道総合試験車」である。東北新幹線区間などでは、白ベースに赤の塗装の編成である東日本旅客鉄道〈JR東日本〉E926形が使用され、「East i〈イースト アイ〉」〈正式名称は「電気軌道総合試験車」〉と呼ばれる。これらの試験車による検測結果は、東海道・山陽新幹線においては新幹線情報管理システム〈SMIS〉、東北・上越・北陸・北海道新幹線においては新幹線総合システム〈COSMOS〉に送られ、それぞれ乗り心地の向上や安定した集電、信号トラブルの未然防止などを目的とした保線作業のデータとして使用される。これらの非営業用車両の車両形式は、「系」や「型」ではなく「○○○形〈がた〉」と表記する。
運行は10日に1回程度。運行ダイヤは非公開であるため、鉄道ファンを中心に「見ると幸せになれる」など、縁起物のような扱いをされている。しかし現代では目撃者がX〈旧Twitter〉などに目撃情報を書き込むことが多いので、以前と比べると見つけやすくなっていた。
JR東海とJR西日本は2024年6月13日に、JR東海の編成は2025年1月に、JR西日本の編成は2027年をめどに、東海道・山陽新幹線のドクターイエローを引退させ、N700Sに搭載された検査機能で代替すると発表した。2025年1月29日をもって、JR東海の編成車両での検測走行が終了した。東海道新幹線では唯一の16両以外〈7両編成〉だったが、運行終了に伴い全面的に16両編成で統一された。