序文・船乗りからは大変恐れられている波
堀口尚次
三角波(さんかくなみ)とは、進む方向が異なる二つ以上の波が重なり合ってできる、三角状の、波高の高い波のことである。波の峰がとがっている。
例えば、暴風の中心が通る水上などに起こる。暴風域のいたるところで波が発生しているため、それらの波が全て様々な角度で重なりあうためである。また、絶壁や防波堤などの近くでも生ずることがある。入射波と反射波が重なりあうためである。また、潮流の向きと風の向きが反対の場合にも生じる。
船乗りからは大変恐れられている波である。船が下から繰り返し短い周期で突き上げられ揺れ幅がみるみる大きくなったり、あるいは予測不能なタイミングで突発的に突き上げられるようなかたちになり、突然安定を失い沈没させられてしまうことがあるためである。中程度以上の大きさをもつ安定した船であっても、あっけなく沈没させられてしまうことがある。経験豊富な船乗りでも打てる手はあまり無く、できることと言えばせいぜい三角波が生じそうな海域には近付かないこと、また入ってしまった場合はその海域から早く脱出すること。 また、転覆や沈没が避けられない状態に陥ったら、敢えて船体を座礁させることくらいしかない、と言われている。
十分広い一様な海洋で、ある一定の方向から風が吹き続けた場合、有義波高は大きくなるが、一発大波を除けば突然大きな波が発生することは考えにくい。しかし海洋には様々な方向から風が吹き、また遠地の低気圧で発生したうねりや、ある地域・地形に特徴的な海水の流れ、もしくは多方向からの波が押し寄せる。こうした多方向からの波が重なり合うことで生じるものが三角波である。三角波は定常波の一種と解される。
三角波は大河川の河口付近、水道や海峡付近で発生しやすい。また、台風の目では周囲からの高波が複雑に重なり合うため、多くの三角波が発生する〈もともとの波自体が10メートルを超えることも珍しくないため、巨大な三角波となる〉。さらに、津波も海底地形の影響による屈折や海岸反射によっては三角波を生じることがあると言われる。
三角波は文字通り波が尖った三角形状になる。波高もさることながら、三角波は尖った形状で下から突き上げるよう発生するので、船舶に重大な被害を生じさせることが多い。