ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1333話 葛葉子別れ

序文・安倍晴明

                               堀口尚次

 

 葛(くず)の葉は、室町時代に作られた安倍晴明出生説話の登場人物。キツネであり、安倍晴明の母とされる。葛の葉狐、信太妻、信田妻ともいうが、この人物に“葛の葉”と名がつけられるのは1699年の歌舞伎『しのだづま』以降のことである。その正体は吉備真備(きびのまきび)の生まれ変わり、唐の碁打ち“玄東”の妻“隆昌女”の生まれ変わり、稲荷大明神〈宇迦(うか)之(の)御(み)魂(たの)神(かみ)〉の第一の神使等、作品によって様々である。また葛の葉をヒロインとする人形浄瑠璃および歌舞伎の『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』も通称「葛の葉」として知られる。

 村上天皇の時代〈946年-967年〉、河内国のひと石川悪右衛門は妻の病気をなおすため、兄の蘆屋道満の占いによって、和泉国和泉郡の信太の森〈現在の大阪府和泉市〉に行き、野狐の生き肝を得ようとする。摂津国東生郡の安倍野〈現在の大阪府大阪市阿倍野区〉に住んでいた安部保名が信太明神を訪れた際、悪右衛門率いる狩人に追われていた狐を助けてやるが、その際にけがをして悪右衛門に捕まり殺されそうになる。そこに悪右衛門が檀家をしている和尚がやってきて殺生を咎(とが)め保名を助ける。この和尚の正体は狐であり、元の姿になって去っていった。その後、女性がやってきて、保名を自分の家まで案内する。〈保名の父郡司は悪右衛門と争って討たれたが、保名は悪右衛門を討った。〉いつしか二人は結婚して童子丸という子供をもうける。〈のちの安部清明である。〉童子丸が7歳のとき、妻の正体が保名に助けられた狐であることが知れてしまう。全ては稲荷大明神〈宇迦之御魂神〉の仰せである事を告白し 、さらに次の一首を残して去ってゆく。恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉 途中、童子丸の母は狐罠に惹かれ化衣装を脱ぎ捨てて狐の姿になりながらも、信太の森へと帰っていった。保名は書き置きから、狐が恩返しのために来ていたことを知り、童子丸とともに信太の森に行き、姿をあらわした妻から黄金の箱と水晶の玉を受け取り別れる。数年後、童子丸は晴明と改名し、天文道を修めた。そして母親の遺宝の力で天皇の病気を治したので、陰陽頭に任ぜられ、またその日が清明節だったので晴明の「晴」の字を改めて安部清明と名乗るよう綸旨が下る。しかし、蘆屋道満に讒奏(ざんそう)され、占いの力くらべをすることになり、結局これを負かして、道満に殺された父の保名を生き返らせ、朝廷に訴えたので、道満は首をはねられ、清明天文博士となった。