ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1344話 符牒

序文・要するに符丁なんだ

                               堀口尚次

 

 符牒(ふちょう)〈符丁、符帳〉とは、同業者内、仲間内でのみ通用する言葉、また売買の場や顧客が近くにいる現場などで使われる、独特な言葉のこと

 接客や作業をしている時に、価格・品質・指示などについて、符牒を使用することによって客に知られずに必要なコミュニケーションを行なうのが一般的だが、「○○ネタ」のように日常語として世間で流用されることもある。

 定価や値札が導入される前の販売業では、たいていは販売者と客の間で価格交渉が行われたため、仕入れ値やグレードを客に知られるのは販売者側にとって不利であった。そのため、価格や等級を販売者間で秘密裏に伝える方法が符牒である。符牒には紙片に暗号で記入する文字符牒、口頭で隠語を伝える口唱符牒、手ぶりで伝える手ぶり符牒がある。今日の小売業では正札による価格表示が一般的になったため、文字符牒は廃れ、口唱符牒は業界内隠語に変わったが、手ぶり符牒は現在でも取引所〈市場、競売所〉などの「手セリ」などで使われている。「警察無線コード」のように単に意味のない連番で示す符丁もある。

 仕事現場において状態や金額や作業や物事など、顧客など内部以外に知られたくない事柄を話す時に使用される。非常に単純な符丁としては、一般の人が使用する言葉をひっくり返したり〈倒語〉、外国語を使用したりする。これらは次第に外部にも知られるようになり、一般人が知らない業界用語を「自分は通である」として使用する場合や、豆知識として記事化されることもある。小説『路傍の石』では、主人公が呉服店でまだ新入りの身分の際、番頭から「お召しのノジアン〈安物→安〈あん〉の字→ノジアンという転訛〉」を持ってくるように言われ、符牒に慣れておらず当惑する場面が描かれている。

私見】NHK番組「英雄たちの選択・本田宗一郎 イノベーションで世界を目指せ」で本田宗一郎は「うちは、俺を含めて、全員が社員なんだ。仕事によって給料の差はあるが、権利は一緒だ。課長、部長、社長も、包丁、盲腸、脱腸と同じだ。要するに符丁なんだ。」と言ったと紹介されていた。筆者の理解では、本田宗一郎が言いたかったのは『課長も部長も社長も、仲間内でのみ通用する言葉を付けられているだけのこと。みな同じ社員にすぎないんだ。』ということなのかなと解釈した。