ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1348話 初切

序文・見世物

                               堀口尚次

 

 初切(しょっきり)とは相撲禁じ手を面白おかしく紹介する見世物。相撲の取組の前に決まり手四十八手や禁じ手を紹介するために江戸時代から行われていたが、現在では大相撲の花相撲や巡業などで見ることができる。

 幕下以下の力士二人と行司が土俵に上がり、対戦形式で禁じ手を紹介する。例えば相手を蹴り倒したり、拳で殴り合ったり、マゲをつかんだり、力水を吹き掛けたり、現代のものでは他の格闘技の技を見せたりもする。笑いを取るためにプロレスを真似て、ピンフォールの3カウントを行司が取ってしまったり、ドサクサに行司をノックアウトしてみたり、あるいはザ・ドリフターズのコントよろしく一斗缶などの小道具が出てくることもある〈一斗缶の場合は一旦土俵下に飛び降りて取り、土俵に飛び戻ってこれで相手の頭を殴る〉。

 巡業という興行全体から見れば一種の余興であるが、演じる本人たちはかなり真剣に筋書きを練っており、力士・行司共に身体を張った芸を見せることが多い。元横綱審議委員会委員長の酒井忠正が学習院時代の相撲大会で友人と初切をやった際に、謹厳で知られた院長の乃木希典から終了後に呼び出されたのでおそるおそる出頭すると「あれはちょっとやそっとの稽古ではあるまい、よく頑張った」と褒められたという逸話を半藤一利が紹介している。

 禁じ手を用いているが、初切に限り反則負けはなく、勝負はなかなか付かない。これは、オチがつくまで行司が「本来なら反則負けのところを、格別の情けをもって」と宣言を繰り返し行い、取り直しにするためである。普段の取組では見られない滑稽さから人気が高く、これを見たさに早い時間から巡業先に足を運ぶ人もいるほどである。

 弓取式同様に、この初切を務めた力士は出世できないというジンクスが存在する〈あくまで俗説〉。ただし過去には栃錦清隆横綱に、出羽錦忠雄が関脇に、栃纒勇光と貴源治賢と天空海翔馬などが幕内に、貴ノ富士三造と貴健斗輝虎などが十両に昇進しており、これで破られたと考える者がいる一方、現在でも相撲界のジンクスを語るときにはかなりの割合で出てくるものである。また、担当する行司は基本的に幕下格以下の行司が担当する為、昇進した場合は初切の役割は後輩の行司に譲ることになる。幕下以下の力士でも初切では大銀杏を結うことが許されている〈これは弓取りと同様〉。