ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1354話 神馬のかわりに絵馬

序文・神聖視された馬

                               堀口尚次

 

 神馬(しんめ)は、神が騎乗する馬として神聖視された馬である。日本の神社に奉献され、あるいは祭事の際に登場する馬を指す。馬の種類に特に決まりはないが、一般的に白馬を重んじる。

 奈良時代から祈願のために馬を奉納する習わしがある。奉納者は一般の民間人から皇族まで様々である。

 小規模な神社ではその世話などが重荷となること、また高価であり献納する側にとっても大きな負担となることから、絵馬などに置き換わっていった。また、等身大の馬の像をもって神馬とすることも多い

 『延喜式』3巻26条では、雨を願う時には黒毛の馬を、晴れを願う時には白毛馬をそれぞれ献納するという記述がある。後代になり、能の演目の一つである「絵馬」では、神が黒馬の絵馬・白馬の絵馬を掛ける内容になっている。中世の武士は戦争での勝利を祈願するために神馬を奉納した。古くからの神社の中に「神馬舎」・「神厩舎」が馬の存在如何を問わずに設置されている所があるのは、神馬の風習の名残である。

 また、祭りなどにおいて多量の馬を使用する場合もあり、一時的に神馬と呼ぶ場合もある。競走馬を引退したサラブレッドが、神馬として奉納されるケースもある。吉兆としての神馬の場合、中国『符瑞図』に、「青い馬〈黒毛で青みのある馬〉で、髪と尾の白いのは神馬である」とあり、『続日本紀神護景雲2年9月11日条に、7月11日に肥後国から得た神馬の記述が見られる。

 絵馬(えま)は、神社や寺院に祈願するとき、あるいは祈願した願いが叶ってその謝礼をするときに社寺に奉納する、絵が描かれた木製の板である。

 かつて、神々は騎乗した姿で現れるとされ、神輿の登場以前は神座の移動には馬が必須と考えられた。常陸国風土記によれば、崇神天皇の代より神事の際に馬を献上する風習が始まったとされる。奈良時代の『続日本紀』には、神の乗り物としての馬、神馬を奉納したと記される。一方、馬を奉納できない者は次第に木や紙、土で作った馬の像で代用するようになり、奈良時代からは板に描いた馬の絵が見られるようになった。一例として、奈良市の日笠フシンダ遺跡から天平10年と記された木簡と共に絵馬が出土している。