序文・煩悩を打ち消す
堀口尚次
除夜の鐘は、日本仏教にて年末年始に行われる年中行事の一つ。12月31日の除夜〈大晦日の夜〉の深夜0時を挟む時間帯に、寺院の梵鐘を撞(つ)くことである。除夜の鐘は多くの寺で108回撞かれる。
中国の宋代の禅宗寺院の習慣に由来するとされ、日本でも禅寺で鎌倉時代以降にこれに倣って朝夕に鐘が撞かれたが、室町時代には大晦日から元旦にかけての除夜に欠かせない行事になったという。禅寺では年の変わり目に鬼門〈北東方向〉からの邪気を払うために行われていたとされる。
除夜の鐘は多くの寺で108回撞かれる。この「108」という数の由来については、次のような複数の説があるが、どれが正しいかはわかっていない。四苦八苦の意味で四九〈36〉と八九〈72〉を足したものとする説がある。月の数の12、二十四節気の数の24、七十二候の数の72を足した数が108となり、1年間を表すとする説がある。なお、寺によって撞く回数は108回と決まらず、200回以上の場合などがある。
除夜の鐘はもとは禅宗寺院の行事だった。しかし、昭和初期のラジオ中継を通して日本全国に広まったという。
浄土真宗の寺院でも除夜の鐘を撞く寺院があるが、真宗大谷派本山の東本願寺では「親鸞聖人の教えでは、煩悩を払うという考え方はしない」として除夜の鐘は実施していない。また、本願寺派本山の西本願寺でも、鐘は法要前や平和を祈るために鳴らすものとしており除夜の鐘は実施していない。
除夜の鐘の風習は明治時代には忘れられていたが、昭和初期のラジオ中継を通して全国に広まったという。東京・上野の寛永寺にて昭和2年、JOAK〈NHK放送センターの前身である社団法人東京放送局〉のラジオによって史上初めて中継放送された。これが「除夜の鐘」という風習が日本に広く定着するきっかけとなった。浄土宗総本山である知恩院でも除夜の鐘の最古の記録は昭和3年か4年頃としておりラジオ局の要請で始められたとしている。
役僧・檀家の高齢化や近隣住民から騒音としての苦情により、大晦日の昼間に撞いたり、中止したりする寺もある。こうした動きに対しては「騒音ではなく、安易にやめる必要はない」「ラジオの普及で広まった文化であり、深夜にこだわる必要はない」という両論がある。