ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1369話 ピタゴラスも知らない「ピタゴラスの定理」

序文・ピタゴラスイッチ

                               堀口尚次

 

 初等幾何学におけるピタゴラスの定理は、直角三角形の3辺の長さの間に成り立つ関係について述べた定理である。その関係は、斜辺の長さを c, 他の2辺の長さを a, b とすると、『c²=a²+b²』という等式の形で述べられる。

 現在の日本では三平方の定理とも呼ばれている。戦前の日本では勾股弦(こうこげん)の定理と呼ばれていた。ピタゴラス」と冠しているが、発見を含めて、定理と何か関係があるのかから知られていない

 ピタゴラスの定理によって、直角三角形において2辺の長さが分かっていれば、残りの1辺の長さを計算することができる。例えば、2次元直交座標系において、座標が分かっている2点間の距離を求めることができる。2点間の距離は、2点の各座標の差の 2乗の総和の平方根となる。

 ピタゴラス直角二等辺三角形のタイルが敷き詰められた床を見ていて、この定理を思いついた」などいくつかの逸話が伝えられているが、実際にこの定理にピタゴラス自身が関わった事があるかから全く分かっていない。

 ピタゴラスの定理の内容は歴史上の文献にいくつか著されているが、どれだけあるのかは議論がある。ピタゴラスが生まれる前からピタゴラスの定理は広く知られていたと言われるものの、特にユークリッド原論によって数学が体系化されるよりも前の時代だと、定理のように一般化された形ではなく特定の直角三角形の性質に留まるものが多くなる。辺の長さの比が3:4:5のように特殊な直角三角形がピタゴラスの定理の式を満たす事が分かっていたとしても、全ての直角三角形で定理の式が成り立つと理解できていたかは別の話であり、この意味で、ピタゴラスの定理の真の発見者を特定するのは難しい。

 因みに、ピタゴラスが組織した教団は秘密主義で、内部情報を外部に漏らすことを厳しく禁じ、違反者は船から海に突き落とした。そのため教団内部の研究記録や、ピタゴラス本人の著作物は後世に一点も伝わっていない。

 そこでピタゴラス個人の言行や人物像は、教団壊滅後に各地に離散した弟子の著作や、後世の伝記、数学に関する本の注釈といった間接的な情報でできあがっている。彼の肖像や彫像類も、すべて後世の伝聞や想像で作られたイメージであり、実際にどういう風貌をした人物だったかも不明である。