ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1383話 振袖と留袖

序文・袖触れ合うも他生の縁

                               堀口尚次

 

 振袖は、身頃(みごろ)と袖との縫いつけ部分を少なくして「振り」を作った袖をもつ着物。現代では若い女性の、黒留袖や色留袖、訪問着に相当する格式の礼装である。成人式、結婚式の花嫁衣装・参列者双方で着用される機会が多い。

 現代では未婚女性の第一礼装とされている。振袖は、現代では、若い未婚の女性が着用するものと見なされる場合が多いが、本来は着用者が未婚か既婚かが問題ではなく、若い女性用の和服であった。

 服飾の分類上は、肩山を境に折り返し、体の前後に連なる身頃と袖をもち、それに襟と前身の袵(おくみ)を加えた盤領(たれくび)式の衣服を広義の小袖という。このうち薄綿を入れた振りのないものを狭義の小袖、薄綿を入れた振りをもつものを振袖という。振袖に対し、婚礼の振袖の袖を短く仕立て直したことに由来する着物が留袖で既婚女性の第一礼装と位置づけられている。

 古来、布などを振る行為には呪術的な意味があり、神に仕える女性たちは長い布や長い袖を振る魂振(たまふ)りを行ったといわれる。また、未婚女性が振袖の袖を振る事は、求愛の意思表示として使われることもあったといい、振袖の長い袖を前後に振ると「嫌い」・左右に振ると「好き」といった風に用いられた。これらは、江戸時代の文献、仮名草子好色一代男などの一節にみられる事から、現代の恋愛事情における「振った」・「振られた」の語源は、振袖にあるとされている

 留袖は、女性が着用する比較的短い袖型に仕立てられた着物。既婚女性が着用する最も格の高い礼装である〈色留袖は既婚未婚を問わず第一礼装として着用される〉。西洋のイブニングドレスに相当するが、イブニングドレスのように時間帯の制約はなく、昼夜問わず着用できる。着物が現代の形態にほぼ類似した形になったのは江戸中期とされている。留袖の袖丈は鯨尺1尺3寸〈49cm〉から1尺6寸5分〈62.5cm〉程度である。近世初期には振袖留袖が存在したが、現代の振袖留袖とは相違がある。近世初期には、振袖は身八ツ口があり脇の開いたもので「脇明」と称され、留袖は身八ツ口がなく袖は身頃に縫い付けられていたため「脇(わき)塞(ふさぎ)」または「脇つめ」と称された。このうち留袖にあたる脇塞の小袖は17歳から18歳頃から着用され成人の衣料とされた。そのため一定の年齢になると振八つ口を縫い留めて短くする習慣があった。