ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1393話 裏が白い二百円紙幣

序文・裏面の印刷が省略された紙幣

                               堀口尚次

 

 二百円紙幣とは、日本銀行兌換(だかん)券の1つ。二百円券、二百円札とも呼ばれる。紙幣券面の表記は『貳百圓』。昭和初期から終戦前後にかけて乙号券、丙号券、丁号券の3種類が発行されたが現在はすべて失効している。

 昭和2年昭和金融恐慌において取り付け騒ぎが発生し紙幣が不足したことから、4月21日(木)に組閣された田中内閣の高橋是清蔵相の指示で潤沢な現金の供給を行って混乱を沈静化させるために急遽制定して製造された。

 かつて製造されたものの不発行となった甲号券相当の紙幣を急造することを当初は想定していたが、日本全国の市中銀行の一斉休業が明ける4月25日(月)に間に合わせることが絶対条件であり、造幣の速度を優先して裏面の印刷が省略されたことからも、その急ぎぶりがうかがえる。用紙の抄造は4月22日(金)の夜から徹夜で行われ、翌23日(土)午後には印刷を開始し25日(月)まで文字通り不眠不休で製造が行われた。24日(日)夕方から25日(月)にかけて完成品が印刷局から日本銀行に五月雨式に引き渡され、そのまま各地の市中銀行に順次搬送された。最終的に25日夜までの間に511万枚〈10億2200万円分〉を製造している。

 製造開始から僅か2日程度で日本全国の銀行の窓口に供給する必要があったことから、新規に券面のデザインを起こす余裕はなく表面は既存の証券類等の有りあわせの彩紋模様を組み合わせたものであり、アラビア数字での額面金額すら表記されていない。裏面の印刷を省略したことから「裏白ウラシロとも呼ばれた。この当時発行されていた日本銀行券には必ず印刷されていた「文書局長」の印章、「日本銀行」の断切文字〈割印のように券面内外に跨るように印字された文字〉、英語表記での各種文言〈発行元銀行名、額面金額、兌換文言〉の表記、日本銀行行章も一切省略されている。記番号については赤色印刷で、通し番号はなく記号〈組番号〉のみの表記となっている。また印章が「総裁之印」の1つしかない。

 歴代の日本銀行券の中で最も使用色数の少ない紙幣であり、黒〈主模様〉と赤〈記番号・印章〉の2色しか使われていない。紙幣印刷で通常用いられる凹版印刷ではなく、簡易なオフセット印刷による印刷となっている。