ホリショウのあれこれ文筆庫

歴史その他、気になった案件を綴ってみました。

第1394話 蟻地獄という昆虫はいない

序文・ウスバカゲロウの幼虫

                               堀口尚次

 

 ウスバカゲロウ科は「カゲロウ」という名が付けられているがカゲロウ目とは縁遠い昆虫である。ただし、一般的に区別されていない。すり鉢状の巣を形成する、アリジゴクの成虫である。卵→幼虫→蛹(さなぎ)→成虫という完全変態をする昆虫である。外見はトンボによく似ており、細長い体、丸い頭と細長い翅(はね)を持っている。ただし、止まるときは翅を背中に伏せてたたむこと、頭は小さくて複眼がさほど巨大ではないこと、短く太い触角などで区別できる。また、「カゲロウ」とあるように、ひらひらと舞い、トンボのように飛ばない。触角が短いため、ツノトンボと区別できる。地方によっては極楽トンボ、神様トンボなど様々な俗称がある。

 このグループの一部の幼虫はアリジゴク蟻地獄〉と呼ばれ、軒下等の風雨を避けられるさらさらした砂地にすり鉢のようなくぼみを作り、その底に住み、迷い落ちてきた地表歩行性節足動物大顎(おおあご)を使って砂を浴びせかけ、くぼみの中心部に滑り落として捕らえることで有名である。捕らえた獲物には消化液を注入し、体組織を分解した上で口器より吸汁する。この吐き戻し液は獲物に対して毒性を示し、しかも獲物は昆虫病原菌に感染したかのように黒変して致死する。その毒物質は、アリジゴクと共生関係にあるエンテロバクター・アエロゲネスなどに由来する。

 「蟻地獄」の名は、その虫やその虫が掘った穴が蟻にとっては地獄のようだ、というところから名づけられたもの。比喩的に、一度陥ったら抜け出せない地獄のような状況についても「蟻地獄」と言う。