序文・不浄の侵入を防ぐ
堀口尚次
蕃塀(ばんぺい)は、神社の参道上にある塀である。社殿を直視できないようにするため、または不浄なものの侵入を防ぐために造られたとされる。
伊勢神宮の皇大(こうたい)神宮〈内宮〉と豊受大(とようけだい)神宮 〈外宮〉には蕃塀があり、単に蕃塀といっただけで伊勢神宮のものを指す場合がある。
地域的には愛知県尾張地方に多く、尾張地方の蕃塀は不浄除け、透垣(すいがい)〈板と板または竹と竹との間を少し透かしてつくる垣〉、籬(まがき)〈竹や柴などで目を粗く編んだ垣根〉などとも呼ばれる。
神社は、古神道である神籬(ひもろぎ)や磐座(いわくら)信仰は、神の依(よ)り代(しろ)であるとともに、その鎮守の森や森林や山や海や川や岩や木などは、禁足地である場所も多く、神域や常世(とこよ)と現世の端境を示し、結界としての役割も果たしている。神籬の「籬」は、垣の意味であり、磐座は磐境ともいい境を意味する。この考え方が積極的に用いられ、古来より郊外の集落の境や辻などに配置された道祖神、庚申塔、祠などの石仏は、災厄を集落に入れないようにするための、結界の役割をしていたともいわれる。
神道においても、結界は神社などでも用いられ、たとえば境界線を示すために、神社・寺院などの境内や建築物では意図的に段差を設けたり、扉や柵、鳥居や注連縄などを用いる。一般の家庭などでも、注連縄飾りや節分の鰯(いわし)の干物なども結界である。
古神道や神道において、一定範囲の空間に設定されたタブー〈禁足〉を視覚化したものとも言え、それは聖なる領域〈常世〉と俗なる領域〈現世〉という二つの世「界」を「結」びつける役割をも持つ。
【私見】愛知県の尾張地域の神社の多く見られる「蕃塀」は、「結界」を具現化した現像物ではないだろうか。なで愛知県の尾張地域に多くあるのかは解明されていないようだ。伊勢神宮に近いということも、無縁ではなさそうだが、推測の域を出ない。