序文・教えさとす
堀口尚次
教誨(きょうかい)とは、第1義には、教えさとすことをいう。同義語として教戒(きょうかい)があるが、こちらは、教え戒めることをいう。両者の違いは「誨〈意:知らない者を教えさとす〉」と「戒〈意:いましめ。さとし〉」の違いである。また、これらから転じて第2義には、受刑者に対し、徳性〈道徳をわきまえた正しい品性。道徳心。道義心〉の育成を目的として教育することをいう。受刑者に対して教誨・教戒を行う者は、教誨師・教戒師という。
日本において、公的な教誨師は、明治41年に施行された監獄法の第29条に基づいて新設された。その後、同法は90年近くの長きに亘って存続したが、最末期において、明治から平成に到る時の流れに伴う社会通念の大きな変化を反映させた改正を何度も検討されながら、全て廃案となってきた。それでもようやくにして、平成18年に施行された「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」附則第15条により、旧態然とした監獄法は改正され、法律名称も「刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律」〈通称:受刑者処遇法〉に改められた。ところが、未決拘禁者と死刑確定者〈死刑囚〉の処遇についての規定だけは現代化から置き去りにされ、旧法のままに続けられることとなった。
このように法改正から取り残された未決拘禁者と死刑確定者の処遇は問題視され、早期に改正するべき案件であったため、第164回通常国会会期中の平成18年における「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律」〈通称:受刑者処遇法改正法〉の成立、同年の公布、そして平成19年の施行により、遅れ馳せながら改正された。未決拘禁者と死刑確定者についての規定は、このような経緯で新法に統合されることとなり、これをもって、全ての条項が旧法となった監獄法は廃止された。
矯正施設における教誨には「一般教誨」と「宗教教誨」がある。一般教誨の内容は、道徳や倫理の講話などで、刑務官・法務教官などが行う。宗教教誨の内容は、宗教的な講話や宗教行事で、各宗教団体に所属する宗教者(僧侶・神職・牧師・神父など)によって行われる。一般教誨は全ての受刑者に参加の義務があるが、宗教教誨は日本国憲法に定める信教の自由の観点から自由参加である。教誨師の宗教別の割合は、多い方から順に、仏教、キリスト教、神道であり、それ以外に、天理教、金光教、大本など新宗教諸派の教誨師もいる。
※刑務所内の教誨室