序文・乗り物が曲がる仕組み
堀口尚次
差動装置は機械的機構の一種で、二つの部分の動きの差を検出、あるいは動力に差をつけ振り分ける装置。歯車を使った差動歯車やねじを使ったものなどがある。デファレンシャルギアあるいは略してデフギア、デフなどともいう。自動車などの車輪のついた乗り物に使われる動力伝達装置であり、差動装置の中で最も身近に使われているものである。
車がカーブを曲がる時、内側と外側の車輪に速度差〈回転数の差〉が生じるが、それを吸収しつつ動力源から同じトルクを振り分けて伝えることができる。つまり、1つのエンジン出力を2つの異なった回転速度に振り分けて伝えることができる。差動歯車は一般的に3輪以上の自動車で利用され、駆動する左右の車輪の軸の中央付近に設けられる。動力のない車輪や、対となる駆動輪が存在しない2輪車では必要ない。
電気自動車などで見られる車輪単位で動力が伝えられるような形式の場合、差動歯車は必要ない。ゴーカートなどの簡易な自動車でも省略され動力が直接左右の車輪に伝えられる。そういった車が、まっすぐ走る場合は特に問題はないが、ドライバーの技量によっては曲がろうとするとどちらかの車輪がスリップし、制御が難しくタイヤや路面を傷めることもある。ゴーカートやレーシングカートの場合は車体フレーム剛性を調整し、コーナリング時に駆動輪の片方が地面から浮き上がる様に走行するテクニックを用いるため、差動装置は必要ない。手押し車など簡易的な車体では差動装置が省略されるが、人が押す力が大きいため強引であるが問題なく旋回できる。
差動装置が省略される理由は、重量のある差動装置を省いた軽い車体を作るため、構造を単純化する、故障率を下げる、費用を抑えるなどがある。
鉄道車両では円錐状の車輪で左右の回転差を吸収するとともに、自ら転向する力を得ている。しかしながら2軸車・ボギー車ともに車軸の中心軸は線路の曲線中心軸とは構造上一致しないため、各種の操舵台車が考案されている。