ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1463話 揚水発電の課題

序文・世界最大規模の施設

                               堀口尚次

 

 揚水発電は、夜間・休日昼間などの需要の少ない時間帯に電力系統の電力・周波数・電圧・力率の調整のため、他の発電所の余剰電力で下部貯水池下池から上部貯水池上池ダムへ水を汲み上げておき、平日昼間・夕方電灯点灯時などの需要が増加する時に、上池ダムから下池へ水を導き落とすことで発電する水力発電方式である。

 揚水発電の役割は、大容量電力貯蔵である。電力需要・供給の平準化を狙う蓄電を目的した、ダムの水を用いて、電力を位置エネルギーとして蓄える巨大な蓄電池、あるいは蓄電所と言うべきものである。

 揚水式発電は、発電で電力供給力・揚水で調整力供給するため、深夜・休日昼間に揚水、夏季の昼間・冬季の夕方に発電する。比較的短時間で揚水・発電の切り替えができるため、大規模電源脱落・需要の予測以上の増加に備えた予備力、大規模停電時の電力系統復旧用の初期電源として重要である。また、原子力発電・大規模火力発電・流れ込み水力発電所・地熱発電太陽光発電風力発電など調整力の小さい電源の占める割合の大きな需要の少ない時間帯に、即応性の調整力として利用されている。

 揚水発電は世界的にも行われているが、電力系統が他国から独立し、電力需要のピークとオフピークの差が大きい日本で特に普及した蓄電方法である。なお原理的には電力の交流周波数を変換する設備としても利用しうる。

 2014年11月、経済産業省は同省が実施した集計により、2013年度の揚水発電所設備利用率が全国でわずか3%にしか達していないことが判明したと発表した。日本国内に40ヶ所以上、総出力2,600万kWと世界最大規模の施設がありながら、100%フル稼働で運転したと仮定した際の発電量と実発電量を比較したところ設備利用率がわずか3%で、2010年以降の利用率はほぼ横ばいのままほとんど変化していないことがわかった。この3%という値はアメリカやドイツの利用率10%と比較すると非常に低い値である。これは、日本の揚水発電所が総出力においては世界最大規模ではあるものの、個々の貯水量に関しては欧米のそれに比べ小規模であるため、設備利用率において欧米レベルの運用を実施することが物理的に不可能なためである。