序文・前面から乗り込む
堀口尚次
BMW・イセッタとは、イタリアのイソ社のイソ・イセッタを、ドイツのBMW社がライセンス生産した車。生産台数としては本家よりもこちらのほうが多いため、ライセンス生産であることが認識されていないことも多いほどである。
1955年BMWの二輪車R-25の245ccエンジンを搭載しイセッタ250を発売。1955年12月に298ccに排気量を拡大し、イセッタ300にモデルチェンジした。1957年には全体を大型化し、通常の4輪配置となった582ccのBMW・600を発売し、モデル全体で約16万台を販売した。また「BMW・イセッタ」としては、Isetta of Great Britain の生産による英国向け〈右ハンドルや、英国の3輪車両の軽減税制を利用するための3輪化など〉モデルもBMWからのライセンスによる。復興期の庶民の足として親しまれると同時に、当時困難な状態だった同社の経営を支えた。
正面に設けられたドアから乗り込む車として有名な、BMWの「イセッタ」は、
250ccという現在の軽自動車よりもはるかに小さいエンジンを搭載していた。乗車定員は2名で、リアのトレッドが極端に狭い4輪車だったが、イギリス向けには3輪モデルもあった。
フロント左側のハンドルをひねると、車両前面が家のトビラのように開く。車体後方のトランクに見えなくもないが、こちらが前。ステアリング機構やメーターパネルは、開いたドア側に付いてるので、乗り降りでステアリングポストが邪魔になるということもない。2名乗車の場合は、運転者が先に乗り込み、次に同乗者が乗り込む、そんなイメージ。
絶対的なパワーはさすがにないが、単気筒エンジンの小気味よいサウンドと、コンパクト軽量な車体は当時の移動の足として大活躍した。現在でも、近所の買い物用に使いたくなる。
現在、高級外車の定番として人気の高いBMWだが、当時は経営難に陥り窮地に立たされていた。倒産もやむを得ない状況でダイムラー〈メルセデス・ベンツ〉に買収されるという話も出ていたほど。その危機的状況を救ったのが、このイセッタだった。イセッタの登場がなければ、現在のBMWはなかった、もしくはダイムラー傘下の車として販売されていたかもしれない。気負わず乗れるコンパクトな車体は当時の人々の的を得ていた。


