序文・倍音唱法
堀口尚次
喉歌は、喉を詰めた発声から生じるフォルマントを利用した、笛のような音などを特徴とする声を用いた特殊な歌唱法。
器楽的特徴をもつ歌唱法で基音と倍音を同時発声する倍音唱法の一種である。 極東地方に広く伝承されており、アルタイ山脈周辺の民族のカイ、モンゴル国のホーミー、トゥヴァ共和国のフーメイ〈ホーメイ〉などがよく知られている。イヌイット、アイヌ、チュクチ人など北太平洋沿岸の諸民族の「喉遊び」も喉歌と呼ばれることがある。
喉歌の発声は、独特の喉頭調節による喉を詰めた声による喉頭音源の生成、舌や口唇の形状を調音運動によって調節し声道の共鳴周波数を制御することによって実現される。喉頭調節としては、喉を詰めることにより仮声帯が内転し、声帯に加えて仮声帯が振動する声帯-仮声帯発声によって独特のダミ声が実現されていることが知られている。また調音は、舌や口唇の形状を変化させ、鋭い第2フォルマントの共鳴を作り、第2フォルマントの周波数を動かすことにより笛のような音によるメロディーを作り出す。喉歌の発声法は、仏教の声明、日本の浪曲、市場の競り声と類似しているといわれている。
ホーミーは、アルタイ山脈周辺民族の間に伝わる喉歌と呼ばれる歌唱法のうち、西部オイラト諸族〈モンゴル国西部と中国新疆ウイグル自治区北部に居住〉に伝わるものの呼称。一般に、緊張した喉から発せられる笛のような声のことを指す。語源はモンゴル語で「咽頭、動物の腹部の毛皮」をあらわす。いくつかのスタイルに分けられるが、人によって分類が異なり、統一見解はまだない。
典型的なモンゴルのホーミーの発声は、まず喉を緊張させた音を安定に大きく発声するところから始まる。唇は左右対称に「ア」を発音するときのように開き、舌は上に巻きあげて舌端の裏側を硬口蓋の奥の方につけ、喉を詰めた声をここで共鳴させる。すると非常に強い第2フォルマント〈「倍音」として説明されることが多いが、実際には一連の倍音列からなる山、つまりフォルマントを認識している〉が発生し、その音が口笛のような高い音として認識されるのである。慣れてくれば、舌端を上あごに接着せず、舌と上あごの間にごく狭い隙間をあけただけで同様の音を発生させることができる。
