ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1494話 治外法権

序文・領事裁判権と混同

                               堀口尚次

 

 治外法権とは、外交官領事裁判権が認められた国家の国民について、本国の法制が及び、在留国の法制が立法管轄権を含めて一切及ばないことをいう。在留国の法制が及ぶことを前提に、一定の免除が与えられることを指していうこともある。

 かつて治外法権は、外交上の慣例として、派遣国の認証があり、接受国による信任状の受理〈接受〉があった場合において、派遣された外交官に対して相互に認められる特権として確立されてきた。もっとも、現在では、外交官であっても接受国の法制が及び、刑事裁判権などの一定の管轄権を免除されるに過ぎないとされている。このような免除を受ける特権は、ウイーン条約においては、外国の公使館および外交特権を所持している外交官に認められる。また正式訪問中の国家元首や首相、外務大臣、国内に停泊中の公用船〈軍艦含む〉、公用機〈軍用機含む〉の内部に適用されると解される。

 何らかの戦争や強制外交、優越的な条約の締約の結果として、戦勝国などに治外法権租借地を期限付きで認めた場合などには、片務的な特権としての治外法権の問題が生じる。この際に問題となるのは不平等条約にもとづく領事裁判権である。多くの場合は接受国の認証なく、単に戦勝国の国民・あるいは兵士であるという地位において治外法権を享受することが可能となるため、外交交渉においてこれらを撤廃することは重要な外交課題となる。

 日本では、安政5年にアメリカ合衆国の間で結ばれた日米修好通商条約をかわきりとしイギリス・オランダ・ロシアと、フランスと相次ぎ締結した条約〈安政五ヶ国条約〉に治外法権の問題が含まれていた。条約は正しくは領事裁判権についての取決めであり、日本の場合いかなる条約においても日本に在住する外国人に治外法権を認めたことはなく、認めたのは日本人に対する外国人の犯罪に対する裁判をそれぞれの国の在住領事に委ねるということだけであった。しかしこれが治外法権であるかのように誤解され、外国人がすべて課税を免除され、日本の一切の行政権に服従しないようになったのは外国人の横暴とこれを黙認して既成事実化した日本人役人の怯懦(きょうだ)〈臆病〉のためであった。