ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1500話 官軍の赤熊

序文・戦利品

                               堀口尚次

 

 ヤクの尾毛は日本では兜や槍につける装飾品として武士階級に愛好され、尾毛をあしらった兜は輸入先の国名を採って「唐(から)の頭(かしら)」と呼ばれた。特に徳川家康が「家康に過ぎたるものが二つあり、唐の頭に本多平八」と詠われたほど好んだため、江戸時代に入って鎖国が行われてからも清経由で定期的な輸入が行われていた。

 幕末新政府軍が江戸城を接収した際に、収蔵されていたヤクの尾毛が軍帽として使われ、黒毛のものを黒熊(こぐま)白毛のものを白熊(はぐま)赤毛のものを赤熊(しゃぐま)と呼んだ。〈なお、俗に「黒熊は薩摩藩、白熊は長州藩、赤熊は土佐藩の指揮官が着用していた」と説明される事があるが、軍帽を「魁」の前立てを付けた黒熊毛の陣笠で統一していた山国隊のように、実際には藩や階級を問わず広く使用されていた。〉山国(やまぐに)隊は、幕末期に丹波国桑田郡山国郷〈現・京都市右京区〉で結成された農兵隊。因幡国鳥取藩に付属し、官軍に加わって戊辰戦争を戦った。

 これらの他に、歌舞伎で用いる鏡獅子のかつらや振り毛、仏教僧が用いる払子にもヤクの尾毛が使用されている。植物名のクルマバハグマ〈車葉白熊〉などのハグマ〈白熊〉は花の形が中国産のヤクの尾の白い毛に似ていることによる。