序文・牛馬のお祓い
堀口尚次
猿まわしとは、猿使いの口上や太鼓の音に合わせて猿が踊りや寸劇などを見せる大道芸の一種。猿飼、猿曳、猿引、猿舞、野猿まわし、猿太夫、猿遣、猿使などとも呼ばれている。近年は、動物を働かせたり道化役として利用することへの反対の声が大きくなり、国内では、日本動物園水族館協会に加入している動物園での類人猿の芸は皆無となっている。
江戸時代には、全国各地の城下町や在方に存在し、「猿曳〈猿引、猿牽〉」「猿飼」「猿屋」などの呼称で呼ばれる猿まわし師の集団が存在し、地方や都市への巡業も行った。近世期の猿引の一部は賤視身分で、風俗統制や身分差別が敷かれることもあった。当時、猿まわし師は猿飼(さるかい)と呼ばれ、旅籠に泊まることが許されず、地方巡業の際はその土地の長吏や猿飼の家に泊まらなければならなかった。新春の厩(うまや)の禊ぎのために宮中に赴く者は大和もしくは京の者、幕府へは尾張、三河、遠江の者と決まっていた。
猿まわしの本来の職掌は、牛馬舎とくに厩(うまや)の祈祷にあった。猿は馬や牛の病気を祓い、健康を守る力をもつとする信仰・思想があり、そのために猿まわしは猿を連れあるき、牛馬舎の前で舞わせたのである。大道や広場、各家の軒先で猿に芸をさせ、見物料を取ることは、そこから派生した芸能であった。
猿回しに使われるサルは調教のため幼くして母サルから引き離され人間との生活に適応させられる。有害駆除が供給源になっている場合もある。人に逆らえないことを覚えさせるため幼いサルの心を折る「根切り」が行われる。根切りとは猿の抵抗心を徹底的に取り除くために行われる暴力のことで、サルを追い込むことで従順に芸を覚えさせる。サルが大人になり制御が難しくなる10-30歳で引退となり残りの生涯は檻の中でくらすことなる。
国際自然保護連合はレクリエーションに霊長類を使用することは動物福祉に反すると明言している。「観光用の娯楽として利用される霊長類はすべて、乳幼児期に母親から引き離され、他の同類と暮らす機会を奪われている。母親から引き離された霊長類は、心理的・肉体的な苦痛を受ける」「芸をする霊長類や交流に使われる霊長類は、残酷な扱いを受ける」「『人間』の環境にいる霊長類の姿は、人々にそのような交流が肯定的で、安全で、無害であるという誤った情報を植え付ける」としている。
