ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1577話 冬眠

序文・クマの生態

                               堀口尚次

 

 冬眠とは、寒冷や餌の枯渇が生じる冬季に動物が代謝を下げて体温が低下する現象。狭義には恒温動物である哺乳類鳥類の一部が活動を停止し、体温を低下させて食料の少ない冬季間を過ごす生態のことである。広義では変温性の魚類、両生類、爬虫類、昆虫などの節足動物や陸生貝などの無脊椎動物が冬季に極めて不活発な状態で過ごす「冬越し」のことも指す。

 クマの冬眠は、期間中の体温の降下度が4~6℃と小さいこと、外部からの刺激によって覚醒し易いことから、しばしば「冬ごもり」や「冬季の睡眠」と呼ばれてきた。しかし冬眠中の生理学的状態が活動期とは全く異なる状態にあり、他の冬眠動物と同じく「冬眠」と呼べる状態にあることが分かってきた。以下クマの冬眠の特徴を列記する。・冬眠期間中に中途覚醒しない。・冬眠期間中の体温は31~35℃と、通常時(37~39℃)と比べて降下度が小さい。・冬眠中に一切摂食・排糞・排尿を行わない。・妊娠したメスは冬眠期間中に分娩し、生まれた子に対し授乳を行う。

 冬眠中は中途覚醒せず摂食しないため、冬眠期間中は秋に過食して体内に貯めた脂肪がエネルギー源である。日本のツキノワグマは秋にブナやミズナラなどのどんぐり類を大量に摂取して冬眠に備えるが、どんぐり類が不作の年にはえさを求めて人里に出てくることが多くなる。また冬眠中一切排尿を行わないことから、冬眠中は活動期と異なる独特のたんぱく質再生機構をもっていると考えられる。人間は長期間動かずにいると骨が退縮するが、クマは冬眠期間中は全く活動しないにもかかわらず、骨の体積は変化しない。なおクマの体温降下度が小さいのは、他の冬眠動物に比べて体の容積が大きいことと関係がある。

 ヒトは冬眠しないが、極低温状態での生存例が報告されている。日本では2006年10月7日に兵庫県神戸市の六甲山で、登山者の男性が崖から転落し、骨折のため歩行不能となり、10月31日に仮死状態で発見されて救助される事故があった。当初は「焼肉のたれで生き延びた」などと報道されていたが、実際は遭難から2日後の10月9日には意識を失い、発見されるまで23日間、食物のみか水すら飲んでいなかったことが判明した。発見時には体温が約22℃という極度の低体温症で、ほとんどの臓器が機能停止状態だったが、後遺症を残さずに回復した。「いわゆる冬眠に近い状態だったのではないか」と医師が話している。