ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1589話 安珍・清姫伝説

序文・道成寺

                               堀口尚次

 

 安珍清姫伝説とは、紀州道成寺にまつわる伝説のこと。思いを寄せた僧の安珍に裏切られた清姫に変化して日高川を渡って追跡し、道成寺で鐘ごと安珍を焼き殺すことを内容としている。そしてこの男女は因縁のまま輪廻転生するが、道成寺の住持の読経の供養により成仏するという仏教説話である。

 安珍清姫伝説は、主人公らの悲恋と情念をテーマとした、紀伊国和歌山県道成寺ゆかりの伝説である。

 伝説のあらましは、おおむね次のようなものである。

『奥州白河〈現在の福島県白河市〉から安珍という僧〈山伏〉が熊野に参詣に来た。この僧は大変な美形であった。紀伊国牟婁郡〈現在の和歌山県田辺市中辺路、熊野街道沿い〉真砂の庄司清治・清次の娘清姫は宿を借りた安珍を見て一目惚れし、女だてらに夜這いをかけて迫る。安珍は僧の身ゆえに当惑し、必ず帰りには立ち寄ると口約束だけをしてそのまま去っていった。欺(あざむ)かれたと知った清姫は怒って追跡をはじめるが、安珍は神仏〈熊野権現・観音〉を念じて逃げのびる。安珍日高川を渡るが、清姫も河川に身を投じて追いかける。蛇体となりかわり日高川を泳ぎ渡った清姫は、日高郡道成寺に逃げ込んだ安珍に迫る。安珍は梵鐘を下ろしてもらいその中に逃げ込む。しかし清姫は許さず鐘に巻き付く。因果応報、安珍は鐘の中で焼き殺されてしまう。安珍を滅ぼした後、本望を遂げた清姫はもとの方へ帰っていき、道成寺八幡山の間の入江のあるあたりで入水自殺したといわれる。畜生道に落ち蛇に転生した二人はその後、道成寺の住持のもとに現れて供養を頼む。住持の唱える法華経の功徳により二人は成仏し、天人の姿で住持の夢に現れた。実はこの二人はそれぞれ熊野権現と観世音菩薩の化身であったのである、と法華経の有り難さを讃えて終わる。』

 京都市妙満寺の梵鐘は、紀伊国道成寺安珍清姫伝説の際に初代の梵鐘が焼けてしまったために、2代目として作ったものである。しかし、近隣に災厄が続いたために埋められてしまった。その後、天正13年の羽柴秀吉による紀州征伐の際、武将の千石秀久が掘り返して京都に持ち帰り、当寺に奉納した。また、鐘が重かったために途中で放棄し、近くの住民の手によって当寺に奉納されたともいわれる。