序文・ぐりはま
堀口尚次
ハマグリ〈蛤、文蛤、蚌、浜栗、魽、鮚、Meretrix lusoria〉は、マルスダレガイ科に分類される二枚貝の1種である。食用として一般的な貝類の一つである。俳句文化においては春の季語の一つ。標準和名の「ハマグリ」は、Meretrix lusoriaという単一の種を表す。ただし、この他にも様々な用法があるため、生物学や水産学関連の文書以外での「ハマグリ」「はまぐり」「蛤」などが何を指すのかが不明な場合も多く、注意が必要である。古くは一般的な二枚貝類の総称として「ハマグリ」が使われた。和名構成の基幹ともなり、ベニハマグリ、ノミハマグリなど、「属」レベル・「科」レベルで異なる種に「○○ハマグリ」という標準和名が与えられることがある。
日本では、縄文時代にはすでに利用していたと考えられており、貝塚からの出土事例もある。東京の中里貝塚から大量に出土したハマグリの貝殻を分析した北区飛鳥山博物館によると、資源管理〈大きく育つまで待ってから採取する〉や、干し貝にして内陸へ供給していた可能性がある。以前は鹿島灘、九十九里浜、日向灘、石川県加賀海域が主要な産地であったが、水質汚染と干潟の大規模な埋立により水揚げは激減、近年では国内で流通するハマグリ類の3/4はチョウセンハマグリである。その一方、福岡県糸島市の加布里(かふり)湾のように、禁漁期間・区域の設定、小さな貝は放流するといった規制により、ハマグリの資源保護と高級ブランド化に成功している地域もある。
ハマグリは同一個体の殻でなければぴったりとかみ合わない。そこでハマグリは貞節の象徴とされ、結婚式やひな祭りでハマグリの吸い物が出されることも多い。貝合わせという古くからの遊戯もハマグリを使うことが多い。語源は「浜の栗」から。また、「クリ」は石を意味する言葉だとする説もある。石が地中にあるように砂の中に生息する本種をクリと呼んだ。ハマグリの殻は向きを揃えないとぴったりと合わないことから、「はまぐり」を逆にした「ぐりはま」で「物事の手順・結果が食い違うこと。意味をなさなくなること」を表す。転訛して「ぐれはま」ともいう。「ぐれはま」の「ぐれ」を動詞化したもの。「予期したことが食い違う・見込みが外れる。不良化する」ことを表す。
三重県桑名市は、ハマグリの名産地として有名で、「その手は食わない」に掛けて「その手は桑名の焼き蛤」という地口(じぐち)〈洒落〉がある。
