ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1577話 「メッカ」は人を引きつける場所

序文・イスラム教最大の聖地

                               堀口尚次

 

 メッカは、サウジアラビアのマッカ州〈歴史的にいえばヒジャーズ地域〉の州都である。正式名はマッカ・アル=ムカッラマ「栄光あるマッカ」。別名、ウンム・アル=クラー「町々の母」。メッカは、イスラム最大の聖地であり、祈りを捧げるところである。ムスリムイスラム教徒は一日に5回決まった時刻になると、メッカの方向に向かって礼拝を行う。あらゆるムスリムにとって、同地への巡礼「ハッジ」は体力と財力が許す限り一生に一度は果たすべき義務である。これは聖典クルアーンの記述を根拠とするもので、イスラム暦の第12月にあたるズー・アル=ヒッジャ月の8日から10日に行われる巡礼である「ハッジ」のことを指し、この期間には世界中からハッジの行事に参加するため巡礼者が集まる。

 「メッカ」という言葉は、宗教的な意味に限らず、重要な場所、人を引きつける場所、あるいはどっと押し寄せた人々を表す言葉として、用いられるようになっている。似たような比喩に「聖地」という表現がある。ある一定の目的や意思を持った多数の人が集まる場所を「憧れの地」や「中心」とみなし、イスラム教徒が集まるメッカに例えて「〇〇のメッカ」と慣用することがある。たとえば「苗場はスキーのメッカ」「高校球児のメッカ、甲子園」、「秋葉原はオタクのメッカ」、あるいは「競艇メッカ住之江」などというように使う。しかし「交通事故のメッカ」など、比喩とはいえ良くないことの意味で使われることもあり、1990年の朝日新聞に「安易に使わないでほしい」という投書があった。1994年のNHKの「ことばのハンドブック」によると、「ひゆ的に“高校野球メッカ、甲子園”などという使い方はあるが、濫用しない。特に、イスラム教以外の信仰に関して使うのは違和感がある」としている。

 そもそも、メッカが所在するサウジアラビア政府や、ハッジ・ウムラといった聖地巡礼を行うムスリムは、メッカ自体を『不可侵のイスラム教の聖地』『預言者ムハンマドの生誕地』であるととらえているため、このような比喩や用法を好んでいない。日本のマスコミも「メッカイスラムの聖地なので、名所や中心地の比喩表現に使わない」というルールを定めた。テレビ放送やラジオ放送でも「〇〇のメッカ」は、宗教や宗教用語について配慮し、表現の自主規制のため使用されないほか、訂正の対象になる社もある。