序文・大韓航空機爆破事件
堀口尚次
金賢姫は、朝鮮民主主義人民共和国〈北朝鮮〉の工作員。1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯として死刑判決が確定していたが、後に特赦されている。
平壌で官僚の娘として生まれ、4歳までキューバで過ごす。母親は日本統治時代の朝鮮半島中部・開城市の出身。9歳ごろから北朝鮮の映画などに女優として出演。
「李恩恵」と呼ばれる女性〈日本から拉致された田口八重子とみられている〉に、1981年7月から1983年3月まで東北里2階3号招待所で日本語教育を受け、大韓航空機爆破事件の際には「蜂谷真由美」という名の日本人になりすました。
事件後に、現地バーレーンの警察に逮捕される直前、「蜂谷真一」という名で日本国旅券の日本人に背乗りしていた、共犯の金勝一と共に、喫煙するふりをして服毒自殺を図るが、死亡した金勝一に対して金賢姫は一命を取りとめた。
事件後、大韓民国国家安全企画部〈現・大韓民国国家情報院〉に引き渡され、捜査官に尋問される際も、日本語や中国語で返答していた。取調べの際、暴力を振るわれたり拷問を受けたり、最悪の場合は死をも覚悟していたが、そのようなことは全くなかった。連日繰り返される綿密な事情聴取の中で、日本人や中国人であるとする主張の数々の矛盾点を指摘された上、「日本に住んでいた時に使っていたテレビのメーカーは?」という質問に、日本や中国出身者ならば答えないであろう北朝鮮ブランド「チンダルレ」と答えて、捜査員に見破られる。捜査員に夜のソウル市街へ連れ出された際、北朝鮮で受けた説明とは全く異なる繁栄ぶりや、誰にも気兼ねせずに政治家の不平不満を口にする一般市民の姿に驚愕し、女性捜査員と風呂での入浴中に、熱湯をかけられる不意打ちを喰らい、咄嗟に出た朝鮮語により、結局は隠し切れずに自白した。
なお、自著で、当時でも西側では当たり前だった拡大コピーや縮小コピーに驚愕し、西側の科学力に驚いた旨のことが記されている。自白後、聖書を通してイエス・キリストを知り、ソウルの汝矣島(よいど)にある中央浸礼教会で受浸、クリスチャンになった。北朝鮮で日本語教育を受けた経験から日本語が堪能。北朝鮮で李恩恵と共に暮らし、日本の文化や習慣、和食などを習得した。北朝鮮による日本人拉致問題について「田口八重子さんは生きている」「横田めぐみさんが自殺したとは考えられない」と発言している。
