ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1601話 耳を切り落としたゴッホ

序文・天才の奇行

                               堀口尚次

 

 フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホ〈1853年 - 1890年〉は、オランダのポスト印象派画家

 主要作品の多くは1886年以降のフランス居住時代、特にアルル時代〈1888年 - 1889年5月〉とサン=レミでの療養時代〈1889年5月 - 1890年5月〉に制作された。感情の率直な表現、大胆な色使いで知られ、ポスト印象派を代表する画家である。フォーヴィスムドイツ表現主義など、20世紀の美術にも大きな影響を及ぼした。また、生涯独身であった。

 1888年自らの左耳を切り落とす事件が発生した。12月30日の地元紙は、次のように報じている。

 『先週の日曜日、夜の11時半、オランダ出身のヴァンサン・ヴォーゴーグと称する画家が娼館1号に現れ、ラシェルという女を呼んで、「この品を大事に取っておいてくれ」と言って自分の耳を渡した。そして姿を消した。この行為――哀れな精神異常者の行為でしかあり得ない――の通報を受けた警察は翌朝この人物の家に行き、ほとんど生きている気配もなくベッドに横たわっている彼を発見した。この不幸な男は直ちに病院に収容された。』

 ゴッホ自身はこの事件について何も語っていない。パリに戻ったゴーギャン〈画家〉と会ったベルナール〈画家〉は、彼から伝え聞いた話として、1889年1月1日消印の友人オーリエ宛の手紙で次のように書いている。

 『アルルを去る前の晩、私の後をヴァンサンが追いかけてきた。私は振り向いた。時々彼が変な振舞いをするので警戒したのだ。すると彼は言った。「あなたは無口になった。僕も静かにするよ。」私はホテルへ寝に行き、帰宅した時、家の前にはアルル中の人が押しかけていた。その時警官たちが私を逮捕した。家の中が血まみれになっていたからだ。事の次第はこうだ――私が立ち去った後、彼は家に戻り、剃刀で耳を切り落とした。それから大きなベレー帽をかぶって、娼家へ行き、遊女の一人に耳を渡して言った。「真心から君に言うが、君は僕を忘れないでくれるね。」』